テクノロジーによって、小売店の常識がまた1つ変わろうとしている。アメリカに本拠地を置く、世界最大手のスーパーマーケットチェーン、Walmart(ウォルマート)が、顧客サービス向上のための従業員向けトレーニングに、VRを活用する予定だと発表した

Walmartは、低価格で高品質な商品、品揃えの豊富さを武器に、世界に名を轟かせてきた。取り扱うの商品の強みが印象に残るが、顧客サービスについては、今まで語られてこなかった。

Walmartは、2016年に顧客サービスの向上を目的とする研修施設「Walmart Academy」を開設。全米200ヶ所に開設しており、年間15万人以上が施設で実地訓練を経験している。Walmartは、商品力という強みに加えて、顧客サービス向上にも注力し始めていた。

顧客サービス向上と従業員教育に力を入れてきているウォルマートが目をつけたのが、VRだ。今回、VR技術が導入されるのは、このWalmart Academyの各施設。今後は、VRコンテンツを利用するためのヘッドセットやPC設備が導入される予定だ。

VR技術による従業員トレーニング

VR技術は様々な可能性が注目されているが、従業員のトレーニングに用いられることは注目される可能性のひとつだ。WalmartにおけるVR技術による従業員向けトレーニングは、360度視点で行われる。顧客対応はもちろん、従業員のマネジメント、さらに週や季節によって変わる混雑具合も仮想現実で体験できる。

今回のVR技術導入に際し、Walmartとタッグを組むのが、スポーツトレーニングにおけるVR活用を促進しているSTRIVR Labsだ。STRIVR Labsは、大学生やプロアスリートのトレーニング用に、VRシステムを開発してきた。そのなかで培った技術を応用し、Walmartで働く従業員向けのVRトレーニングシステムを提供することになる。

日本でも、NTTデータが開発したプロ野球選手向けのVRトレーニングシステムなど、スポーツトレーニングの一環としてVR技術が導入されるケースはすでにある。人による顧客サービス向上を目的として、小売店で働く従業員向けのトレーニングにVR技術が使われることも、今後、十分考えられるだろう。

人々は人間味ある接客を求めている

小売業では、レジが自動化される流れが一般的だった。日本でもセブンイレブンやファミリーマートなど大手コンビニエンスストアが、2025年までに全店舗にセルフレジを導入すると発表したことは、記憶に新しい。WalmartでもiPhoneを使ったセルフレジの導入は進んでいる。自動化が進む一方で、従業員のトレーニングに注力するのはどういった理由からなのだろう。

2016年にアクセンチュアが発表しているレポートによれば、米国の消費者の83%は顧客窓口での対応を受ける際、デジタルではなく人間による人間味のある対応を求めていることが明らかになった。さらに、米国においては顧客サービス品質の低さが原因となった顧客離反による損失は、1.6兆ドルにも達すると予測されているという。

米国で顧客が求める体験を提供し、顧客離反を防ぐためには、従業員のトレーニングに力を入れなければならない。

「人とデジタルの力を活用して、お客様のためにもっと尽くそう」

Walmart CEOのダグ・マクミロンは、社員にこう語っている。人とデジタルの力を合わせることで、これまで以上に優れた顧客サービスの提供が可能になる。

img:Walmart