ドローンテクノロジーの進化と「エア・タクシー」市場の台頭

建設や農業などでコスト削減や作業効率改善につながると大きな期待を集めている産業分野のドローン活用。

現在、各所で実証実験や実際に導入する動きが活発化している。一方で、ドローンに関連してもう1つ大きな動きが本格化しようとしている。それが「人乗りドローン」や「エア・タクシー」と呼ばれる分野だ。

2016年1月、米国で開催されたCESにて中国のドローン会社EHangが人乗りドローン「EHang184」を発表し、世界中から注目を浴びた。ただ当時は「本当に人を乗せて飛べるのか?」といった疑念の声も少なくなかった。

しかしその後さまざまなプレーヤーが登場し、取り組みを本格化させたことで「人乗りドローン」を取り巻く状況は大きく変わりつつある。EHangは2018年までにドバイで「ドローン・タクシー」として、オペレーションを開始する計画だ。

「人乗りドローン」や「エア・タクシー」は、EHangやUberなどのスタートアップだけでなく、エアバスなど航空大手も注目している市場だ。 エアバスの競合であるボーイングもこのほど、ある企業を買収したことで、この市場への参入があるのではないかと噂されている。

今回は、ボーイングの狙いやエアバスの取り組みなど、航空大手の動向をお伝えしたい。

エア・タクシー市場の主導権争い?本格化する航空大手の取り組み

ボーイングがこのほど買収したのは、米バージニアに拠点を置く航空テクノロジー開発企業Aurora Flight Sciences(AFS)だ。AFSは1989年に設立された企業で、電力推進航空機や垂直離着陸(VTOL)機などの先端航空テクノロジー開発に強みを持つ企業。

AFSは民間企業だけでなく、NASAや米軍にもテクノロジーを提供してきた実績を持つ。今回、AFS買収に注目が集まった理由は、同社がUberのエア・タクシー構想「Uber Elevate」に携わっているからだ。Uber Elevate構想は、都市間を空飛ぶ自動車/タクシーで移動する未来の都市交通を描いたコンセプト。

Uberは2020年までにドバイなどで空飛ぶタクシーサービスを開始する計画があると報じられている。ボーイングはこのAFSの買収を通じて、電力推進航空機、VTOL機、エア・タクシー分野のテコ入れ/参入する可能性があるとして注目されているのだ。


Aurora Flight Sciences社が開発している電力VTOL機

ボーイングによるAFS買収に関しては、この分野でエアバスが先行して取り組みを加速させていることも影響していると考えられる。

注目を集めるエアバスの取り組みの1つに2016年から始まった「Vahana」プロジェクトがある。サンスクリット語で「神の乗り物」を意味するVahanaは、通勤など約80キロメートル圏内の移動を想定した自動離着陸・操縦が可能な1人乗り電力推進VTOL機。

シリコンバレー拠点の同社子会社A3(Aキューブ)が開発しており、2017年末までにアルファ版の試験飛行を終え、2018年にはベータ版の開発に取り掛かる予定だ。Vahanaを使ったエア・タクシーサービスは2022年頃から開始される見込みという。


1人乗りエア・タクシー「Vahana」(A3社プレスキットより)

またエアバスは、最大4人乗ることが可能な電力VTOL機「CityAirbus」の開発も行っている。これまでに地上での電力推進システムの試験を完了させ、2018年には飛行テストを実施する計画。サービス開始は2023年頃を予定している。


「CityAirbus」イメージ(エアバス社プレスリリースより)

「人乗りドローン」や「エア・タクシー」は、都市交通を改善したいと考えている国・都市が導入を検討しているテクノロジー。

アラブ首長国連邦・ドバイでは、2030年までに都市移動の4分の1を自動運転にシフトする目標を掲げており、その一環でエア・タクシーを導入していく計画だ。ドバイではすでにドイツの人乗りドローン「Volocopter」の飛行テストが実施されている。

一方、シンガポールも少子高齢化や都市交通問題の解決に向け国内の移動手段の自動化を進める計画で、エア・タクシーも導入検討されていると報じられている。

このように、今後拡大見込みのある「人乗りドローン」「エア・タクシー」市場における主導権を握るべく、ボーイングとエアバスが競争を本格化させている構図が見てとれるのではないだろうか。競争のなかで「人乗りドローン」がどのように進化していくのか注目していきたい。