Spotify、Netflix、Adobe、Apple Music、Amazon Prime、Kindle Unlimited…。

上記で列挙したサービスはすべて月額一定の料金でサービスを享受できる「サブスクリプション方式」のビジネスモデルを採っている。

シェアリングエコノミー、SaaS系サービスの主流化。モノを永久に“所有”する時代から、必要な時に必要な数だけ“利用”する時代に移るにつれ、サービスが“サブスク化”する勢いは加速しつつある。今やサブスク化の流れはコンテンツのみならず医療サービスや不動産、歯ブラシまで、多岐にわたる。

私たちが日常で不自由なくサブスクリプションサービスを利用する上で、不可欠なアイテムといえばクレジットカードだろう。「サブスク化」の流れは、クレジットカードのあり方にも変化を及ぼしているようだ。

もしクレジットカードを紛失しても、絶望することはなくなる?

想像してみてほしい。もし今、クレジットカードをなくしてしまったら――。

再発行はもちろんのこと、カードに紐付けられたサービスの登録情報のアップデートが必要になる。紛失に付随するタスクの多さに、思わず絶望感すら覚えるだろう。

冒頭で既述したように、今後様々なサービスのサブスク化が見込まれる。すると、クレジットカードを紛失した際に発生する事務手続きコストも同時に高まっていくだろう。

クレジットカードの本質はプラスチックのカードそのものではなく、「暗証番号」にある。つまり、番号さえあれば物理的なカードを持っていなくともクレジットカードを利用できる。

この点に着目し、クレジットカードに新たな風を呼び込む“新種”がアメリカで産声を上げた。フィンテックスタートアップFINALが開発したクレジットカード“Final”だ。同社はこれまでに400万ドルを調達。2018年1月には金融業界の巨頭ゴールドマンサックスに事業を売却した。

Finalが提供するサービスは、そんなクレジットカードの特性を生かし、バーチャル上に複数のクレジットカード番号を発行するものだ。クレジットカードを1枚なくした途端、絶望にくれることは今後なくなるかもしれない。

バーチャルで、いくらでも。無限に生成されるあなただけの“クレジットカード番号”が、紛失後の不安をなくす

Finalが開発したクレジットカード「Final」はサービスの数に応じてクレジットカードの番号を「分散化」できるサービスだ。

「分散化」について、より具体的に説明する。Finalを使用することで「Amazon用」、「Netflix用」とサービスに応じた個別のクレジットカード番号を無限に生成することができる。

クレジットカード番号を複数入手できることで、仮にサービスのセキュリティが破られ、クレジットカード情報が抜き取られてしまったとしても、自身の口座が脅かされる心配もない。まさに「サブスク時代」に最適化されたサービスといえるだろう。

「支払いを一元管理できることこそが、クレジットカードの魅力だったのでは?」と思う方もいるかもしれないが、ご心配なく。Finalはそのあたりもぬかりない。

登録したクレジットカード番号はアプリ内の一覧で確認することができ、都合の良いタイミングにワンタップで特定の番号を破棄することも可能になっている。

「無料お試し期間だけ使おうと思ったら、次の月まで払っていた…」といった旧来までの「クレジットカードあるある」も、Finalによって解決できる。

サービスに応じて個別のクレジットカード番号を取得できる

必要であればFinalの本社より実物のカードを郵送してもらうことも可能だが、基本的にはバーチャルカードのみで利用できる。バーチャルカードは1回の取引後に永久に無効化される「ワンタイム使用型(one-time use)」、または選択した1つのサービスでのみ使用可能な「固定型(merchant-locked card)」のいずれかを選択できる。

スタートアップでありながらFinalはセキュリティにおいても「もはや銀行レベルなどではない」と自社のサイトで自称するほど絶対の自信をのぞかせている。クレジットカードにおいてセキュリティを何よりも重要な要素の1つと捉えているFinalは、2年以上の時間をかけてゼロベースからシステムを構築したという。

今後は設定金額の上限に達した際に通知してくれる機能を追加予定だといい、それによってより一層快適なサブスクリプション・ライフをユーザーは享受できるようになるだろう。

ゴールドマン・サックスに事業を売却。金融業界の“巨頭”を後ろ盾に、6兆ドル市場へ向かう

FINALは6兆ドルとも推定されるクレジットカード市場に乗り込もうとしている。

400万ドルの資金調達を達成したのち、2018年1月にはゴールドマンサックスに事業を売却。同社が提供するオンライン融資サービス「Murcus(マーカス)」に、これまでの金融サービス業で培ったノウハウを寄与する。それと同時に、膨大な資金力を後ろ盾にFinalのサービス拡張を目論んでいる。

AMPでは以前、コンテンツの個別最適化の流れを紹介した。コンテンツに限らず、あらゆる領域のビジネスシーンでサービスが個人に最適化され、細分化していく。それと並行するように、一層生活のサブスクリプション化が加速し、クレジットカードは「複数持つのが当たり前」になる。

Visaカードが長らく覇権を握り続けてきたクレジットカード業界に、ディスラプションが訪れる日は近い。直近では仮想通貨が注目の的になっているが、クレジットカードも時代の流れに応じて刻々と最適化を進めている。テクノロジーの進展によって変わる「お金」のあり様は、多面的に進化を遂げているのだ。

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