青い海に漂う大きなクジラの親子。よく見ると子供のクジラは動いておらず、母クジラが白っぽく豹変したその亡骸を口でくわえ、悲しみに暮れたように海をさまよっている。人間が廃棄した「プラスチック」がその死因と考えられているーー。

これは、英BBCのドキュメンタリーシリーズ『ブルー・プラネットⅡ』のワンシーン。同作は、プラスチックが海を汚染している現状を映し出し、多くの反響を呼んだ。以降、プラスチック容器を削減する動きは世界的な潮流となってきている。

オランダ・アムステルダムでは、プラスチック容器を一切使わないスーパーマーケットも登場した。

世界初、プラスチックフリーのスーパーマーケットが登場

オランダのオーガニック・スーパーマーケットチェーン「エコプラザ」はこのたび、アムステルダムの実験店舗「エコプラザLab」でプラスチック容器を一切使わない試みに乗り出した。

同店舗では肉、米、ソース、乳製品、チョコレート、シリアル、果物、野菜にいたるまで約700品目のアイテムでプラスチック製の容器・包装をすべて除去。ガラス、金属、段ボールなどの伝統的な素材のほか、水、炭素、土に堆肥化できるバイオ素材を使用したもののみを陳列した。

通常はビンの蓋の裏に使われるポリフェノールAなども除去し、完全にリサイクルできるものだけを販売している。


「エコプラザLab」ではプラスチック製の容器・包装を一切使わない約700品目のアイテムが並ぶ(写真:ECOPLAZA)

同店舗ではまた、スウェーデンの「ブルーウォーター」が開発した浄水機を導入。近所の運河の水を直接浄化し、飲料水を提供するもので、消費者が自分のボトルを持ってきて水を購入するシステムだ。全世界で飲料水用に毎分100万本が消費されているペットボトルを削減するため、同社はこの機械を開発したという。

エコプラザのプラスチックフリー店舗を企画・立案したのは、イギリスの環境保護団体「ア・プラスチック・プラネット」。同組織はオリジナルブランドでプラスチックフリーの商品も展開している。

創始者の一人であるSian Sutherland氏は、「世界初のプラスチックフリーのポップアップストア登場は、プラスチック汚染に立ち向かう世界的な戦いのマイルストーンだ」と表明。エコプラザの最高経営責任者Eric Does氏は、「お客様は何層にも重なるプラスチックのパッケージにうんざりしている」と指摘した。

同チェーンでは、2018年末までに74支店で「プラスチックフリー」のコーナーを導入する計画だ。


スウェーデンの「ブルーウォーター」は運河の水を直接浄化し、飲料水を供給する機械を開発した(写真:Bluewaterのフェイスブックページより)

イギリスでプラスチックごみ削減が加速

プラスチック容器を使わないスーパーマーケットの試みは、2018年1月に発表されたイギリスの環境対策が背景にある。ここでは、向こう25年間でプラスチックごみを削減する政策が打ち出され、スーパーマーケット内にプラスチックフリー製品のコーナーを設置することも盛り込まれた。

英政府は2042年までにすべての不要なプラスチック廃棄物を廃止する方針で、この目標に向けて全小売店でレジ袋1枚の使用につき5ペンス(約7.5円)を消費者に課す計画だ。従業員250人以上の大手小売りチェーンでは、すでにレジ袋の使用に5ペンスが課されているが、この措置は90億枚のレジ袋削減につながったという。

英政府はまた、「プラスチック改革」に70億ポンド(1兆円)を投じる計画で、プラスチックに替わるバイオ素材の開発にも注力する。さらに英下院環境監査委員会は現在、使い捨てのコーヒーカップ1個の使用に対し、25ペンス(約38円)を課すことを政府に求めているという。

民間企業でもプラスチックごみを削減する動きがみられ、英冷凍食品大手の「アイスランド」は、2023年までに自社ブランドのパッケージをすべてプラスチックフリーにする計画を発表。

また、コーヒー業界大手のスターバックスは、2018年2月からの3カ月間、ロンドンの35店舗で使い捨てコーヒーカップに5ペンスのカップ代を徴収するシステムを導入した

同社はこれまで、タンブラーを持参した顧客に商品価格を割引するシステムを導入してきたが、課金によるゴミ削減の効果が大きいことに注目し、今回の措置に踏み切った。3カ月間の試験導入の後、消費者の反応を調査するという。


スターバックスは2月から3か月間、ロンドン35店舗で使い捨てコーヒーカップに5ペンスをチャージしている
 

台湾でも使い捨てプラスチック製品の使用禁止へ

アジアでは台湾の環境保護署(EPA)が2030年までに使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する政策を盛り込んだロードマップを発表 した。

まずは2020年から全飲食店でのプラスチック製ストローの使用を禁止。2025年までにプラスチックのストロー、袋、カップ、使い捨て器具の使用に料金を課し、これらの製品を削減した後、2030年までに段階的にすべての使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する方針を打ち出した。

EPAによると、台湾では現在、国民1人につき年間700枚のプラスチック製レジ袋が消費されており、同署ではこれを2025年までに年間100枚、2030年までにゼロに削減したい考えだ。

一方、欧米や日本から大量の資源ごみを輸入している中国は、2017年に生活由来の廃プラスチックの輸入を禁止した。中国では海外からの資源ごみを仕分けして玩具などの材料に再利用してきたが、リサイクルの課程で汚染物質が発生し、国内の環境問題に深刻な影響を及ぼしていることが問題視されたのだ。

これまで国内で処理しきれなかった資源ごみを中国への輸出で解決してきた欧米諸国や日本は、輸出先をインドや東南アジアにシフトしているが、それでも処理しきれないごみの山が国内に堆積することを危惧している。リサイクルを拡大すると同時に、ごみ自体の削減が課題となってくる。

リサイクルされるプラスチックはわずか9%

米ジョージア大学の調べ によると、1950年以降これまでに製造されたプラスチック製品の重量は83億トンと、実にゾウ10億頭、エンパイヤ―・ステート・ビルディング2万5000棟分に上る。このうちリサイクルされたのはわずか9%にとどまっており、大部分はごみとして、埋立地や海に廃棄されている。

このままのペースだと、2050年にプラスチック製品は340億トンに達すると予想され、魚よりも多くのプラスチックが海に存在することになるという。


プラスチックごみによる海洋汚染は、魚や海鳥、海洋哺乳類など多くの生物に深刻な影響を与えている(写真:米海洋大気庁)

生活由来の廃プラスチックには、汚れや異物がついていたり、複数の種類の樹脂が混ざっていたりするため、再生プラスチックの原料として使うことが難しい。ペットボトルの再利用も実際はわずかで、大半は焼却されているのが現状だ。

英プリマス大学の調査 によると、海に廃棄されたプラスチックごみが原因で、少なくとも700種の海洋生物が影響を受けている。また、米海洋大気庁によると、何百万にも及ぶ魚や海鳥に加え、年間10万匹の海洋哺乳類がプラスチックごみの摂取や絡まりで死亡しているという。

プラスチックは化学的に安定した物質で、自然には分解されない性質を持つため、自然環境に流れ出した後は長年にわたって自然を汚染し続ける。プラスチックを飲み込んだ魚や動物を通じて、人間の身体にもプラスチックやそれに付着した有害物質が取り込まれ、健康に害を及ぼす可能性もある。

最後は自分に降りかかる問題として、われわれは便利な使い捨てプラスチック製品に溢れた生活を見直す時期にきている。

文:山本直子
企画編集:岡徳之(Livit)