IoT技術の利用拡大にともない、収益機会の増加が予測されている。

IoTにおいては、モノ同士がインターネットにより相互接続される。データが蓄積され、それをもとに的確な動作を実現し、生活や産業を効率化する近未来型テクノロジーだ。

IoT産業の収益としては、接続サービスがまず考えられる。だが、IoT産業のエコシステムは、さらに広い関連分野を包含する。シェア拡大のためには、収益機会を求め関連市場へ参入することが必要になりそうだ。

モバイル通信事業者を代表する団体であるGSMA(GSM Association)が、グローバルにおけるIoTの接続件数と収益の予測を行っている。

2025年、IoT技術がもたらす収益機会は1兆1000億ドル(約120兆円)

GSMAインテリジェンスの最新データによると、IoTの世界市場は、2025年までに売上高が1兆1,000億ドル(約120兆円)に達する(IoTハードウエアを除く)。

この時点で、接続サービスによる収益は、IoTの収益機会全体で占める割合がわずか5%になると考えられている。全体の3分の2(68%)を占めるのが、プラットフォーム、アプリケーションサービス、クラウド、データ分析、セキュリティーなどの分野だ。残り27%が、システム統合、マネージドサービス、コンサルティングを含むIoT専門サービスとなる。

通信事業者がIoT市場でのシェア拡大を目指すには、自社の能力を、接続サービス以外に拡大する必要性があるということだ。すでに多数の通信事業者が、IoTに特化した事業部門やサービスを立ち上げ、課題への取り組みを始めている。

一方、グローバルにおけるIoT接続件数は、2025年までに250億件以上に達する見通しだ。これは、主として産業IoT市場の成長による。

その時点では、接続総数の半分以上(138億件)を、産業分野、すなわち企業や垂直分野に特化したアプリケーションで採用されるIoTソリューションが占めると予測される。消費者分野におけるIoT接続件数は、スマートホーム市場の発展がけん引し、114億件に達する見込みだ。

またアジア太平洋地域は、世界最大のIoT地域になると予測されている。2025年までに、アジア太平洋地域の収益は3,860億ドル(世界合計の35%)、接続件数が110億件(世界合計の44%)に達するというのが、GSMAの予測だ。

日本においても、IoTを中心とした統合的なソリューションを、畜産業界に導入した事例が存在する。

IoTソリューションとしての「スマート養鶏」

ソフトバンクグループのPSソリューションズ株式会社、飼料メーカーの伊藤忠飼料株式会社、自動機械装置および省力機器メーカーのCKD株式会社の3社は、畜産分野で協業し、2018年秋から養鶏IoT(スマート養鶏)サービスの提供を開始する。

養鶏IoT(スマート養鶏)サービスは、「開放鶏舎(自然換気で管理が可能な鶏舎)」で、各種IoT機器を取り付け、鶏舎内の環境情報を管理し、作業を自動化するものだ。

鶏舎内の温湿度管理と空調制御、将来的には水やガスなどの流体制御を遠隔地から行えるようにする。養鶏農家の管理作業の省力化と、労働生産性の向上が期待できる。

従来、温湿度・空調管理は、経験と勘に頼っていた。IoTソリューションでは、湿度・空調管理を飼養成績と連動して記録し、AI(人工知能)で分析することで、養鶏農家の知見や飼養技術を見える化を進める。

知識体系を整理し、養鶏eマニュアル化することで、養鶏農家ごとの精密な飼養技術継承をサポートする力となる。

スマート養鶏サービスは、現在、伊藤忠飼料研究所(栃木県那須塩原市)にて実証実験が行われている。IoTセンサーによるビニールハウスなどの園芸施設の温湿度の把握、カーテン制御、水田・畑・温室での灌水(水やり)の遠隔制御・自動化、といった技術が養鶏に応用される。

このように「スマート養鶏」では、複数の企業が、IoTを活用した養鶏業へのソリューションを提供する。IoTを中心としたエコシステムを形成しているといえるだろう。

ソリューションを提供するIoTエコシステムが収益機会を広げる

モノをインターネットで繋ぐIoT。IoT機器や接続サービスだけをイメージしていては、収益チャンスを見逃すことになりそうだ。

GSMAの予測では、2025年の1兆1,000億ドル(約120兆円)市場で、接続サービスは5%を占めるに過ぎない。本当のチャンスが存在するのは、IoTに関連するプラットフォーム、アプリケーションサービス、クラウド、データ分析、セキュリティーの分野だ。さらには、システム統合、マネージドサービス、コンサルティングを含むIoT専門サービスといった市場が広がっている。

産業分野の面からみても、工業だけでなく畜産など、応用分野は広い。

まだ始まったばかりともいえるIoT市場。拡大する収益へアプローチする機会も、広く開かれているようだ。

img:GSMA,PS Solutions