eye catch image:© Ben Mierement, NOAA NOS (ret.)

「今、各産業がアクションを起こさなければ、2050年までに、海にはプラスチックごみの量が魚より上回ることになるだろう」――これは2005年に単独無寄港ヨット世界一周の当時の記録を塗り替え、世界の海に精通するデイム・エレン・マッカーサーの、調査に基づいた忠告だ。

2014年に3億1,100万トンだったプラスチック製品の製造は、この先も増え続けることが予測される。リサイクルされるのは、そのうちのわずか5%で、30%強が自然界に流出。特に海洋へは毎年800万トン以上が入り込んでいる。

それを受け、世界中で使い捨てのプラスチック製品の使用禁止が進みつつある中、プラスチックの素材や使い方などを見直し、根本的な問題解決を目的とした、ユニークなビジネスコンペが実施されている。「ニュー・プラスチックス・エコノミー」というイニシアチブのもと行われている、「イノベーション・プライズ」だ。

サーキュラー・エコノミーのコンセプトを取り入れたビジネスコンペ

「ニュー・プラスチックス・エコノミー」は、先のデイム・エレンが創設したエレン・マッカーサー財団が率いている。プラスチック製品に依存する、今の生活のあり方を再考、再デザインし、新しいアイデアを生み出すことを目指す。

財団の活動はサーキュラー・エコノミーの枠組みに従って行われている。サーキュラー・エコノミーは、廃棄物の3R(リデュース、リユース、リサイクル)を行って、廃棄量を減らし、また資源として循環利用すること。「イノベーション・プライズ」もこのコンセプトに基づいている。

2部門あるコンペのうちの1つが、「サーキュラー・デザイン・チャレンジ」だ。小型だったり、袋の形状が複雑なプラスチック包装を対象としている。こうしたパッケージは、全プラスチック包装の30%を占め、リサイクルしにくいために、多くが海洋汚染を引き起こす原因になっている。同コンペには、世界60カ国から600ものプロジェクトが参加。3カテゴリーそれぞれに2プロジェクトが選ばれ、賞金100万USドル(約1億1,000万円)を分け合った。

カテゴリー1 食品の買い物を見直す

スーパーマーケットの棚には、プラスチックやビニールで包装された食品や飲料があふれている。衛生面や鮮度の面で必要とはいえ、ほとんどが使い捨て。毎日の生活上のことだけあり、現況の見直しは必須といえよう。

最近話題のパッケージ・フリー・ショップの進歩型が、チェコの「MIWA」だ。生産者やメーカーは「カプセル」に製品を入れ、店舗に納品する。「カプセル」は人間工学に基づき、独自に開発されたもので、そのまま店舗内のディスプレーに取り付けができる。


「MIWA」のシステムは、店舗のサイズに関わらず導入可能。生産者にも消費者にも従来の習慣を変えてもらうのが狙いだ

顧客は、スマートフォンに専用のアプリをダウンロードし、店内のディスプレーから購入物のコードを入力、必要な数や量を注文する。操作は店舗外で行うことも可能。店舗でスタッフは注文に応じた製品を即刻用意し、顧客は注文品を受け取るだけだ。「カプセル」は使用後回収され、洗浄して再利用される。「MIWA」はオルタナティブな流通システムの提案を通して、プラスチック包装を利用せず、食品も必要な量だけ購入することを人々に啓蒙したいと考える。

チリの「アルグラモ」の狙いも同様だが、特に経済的に困窮するエリアの住人へのサポートを目的としている。国内でプラスチックなどのパッケージが商品の値段を吊り上げる大きな原因となっていることに着目し、自動販売機から包装されていない商品を、リサイクル可能な容器に顧客が直接入れて買うシステムを取っている。これなら、良質な食料品や洗剤などを安価に提供することができ、プラスチックなどの無駄な包装もなくなるというわけだ。現在すでに2,000の店舗で展開し、顧客は20万人にも及ぶ。

カテゴリー2 プラスチックの小袋をリデザイン

シャンプーやソースなどが入ったプラスチック製の小袋はプラスチック製のパッケージの10%を占め、リサイクルするのが難しい。そこでリサイクルしなくて済むよう、包装素材の見直しが必要となる。

海洋のプラスチック汚染が特に深刻なインドネシアの「エヴォウェア」のパッケージは海藻が原料だ。海藻は育成に土地を必要とせず、森林破壊を招くこともない。使用後、生物分解するのはもちろん、口にしても問題ないという優秀な素材だ。


「エヴォウェア」のパッケージ。誰もこれが海藻でできているとは思わない

「エヴォウェア」は従来のプラスチック製パッケージ以上の機能をそなえている。液体から固形物まで、さまざまなものの包装が可能なのはもちろん、ブランドや企業のロゴの印刷や、密封のための熱処理ができ、保存期間は2年間と使い勝手が良い。原材料はもとより、生産過程でも環境への負荷を抑える努力を怠らない。使用後、廃棄すると、「エヴォウェア」は生物分解し、植物育成のための堆肥ともなる。また原料は現地生産者から購入。一般的に生活水準の低い海藻生産者と家族、コミュニティを支える。

一方、米国の「デルタ」の素材も海藻だ。球形の容器ごと食べられる水、「オーホー」を創り出したスキッピング・ロック・ラボ社が開発し、同様の技術を利用、三角形をしている。ソースやシャンプーなど主に液体の包装に利用する。加えて、店舗先で必要なものを必要なだけデルタに入れるためのディスペンサー状の機器も開発。生物分解の速度が非常に速い、材質の特徴に対処できるよう配慮されている。

カテゴリー3 テイクアウト・カップに変革を

カフェで使用されるテイクアウト・カップの数は、年間世界中で1,000億個にも上るそうだ。最近では自分のカップを持参したり、リサイクルできる素材のカップも出回ったりしているが、廃棄量から考えても、フタも含め、環境に大きな影響を与えていることは明白だ。


「カップクラブ」のカップは耐久性があり、130回以上再利用が可能

英国の「カップクラブ」は、テイクアウト・カップにサーキュラー・エコノミーのシステムを取り入れている。「カップクラブ」は、加入したカフェにカップとフタを配達し、カフェはそのカップを使って従来通り、コーヒーを販売する。使用後、顧客によって返却場所に戻されたカップは回収・洗浄され、再利用される。カップは約130回再利用が可能で、製造時の環境への影響もプラスチック製と比べ、半分で済む。洗浄や配達も環境への負担を考慮の上、行われている。

カフェは、カップに組み込まれたRFIDを通して、顧客データを収集することができる。中身がもれない作りで、温かさもプラスチック製より持続するカップは、顧客にとってもボーナスとなる。

また、米国の「トリオカップ」は折り紙にヒントを得てデザインされたカップだ。カップはリサイクル可能でも、ポリスチレン製のフタはできない。しかし、「トリオカップ」はフタがカップと一体化しているため、心配は無用だ。飲料が入ったカップのフタを折り込むのも、開くのも簡単。飲みやすく、中身がこぼれにくいように設計されている。ティーバッグの糸用の穴も開けられており、至れり尽くせりといったところ。

トリオカップの素材は紙製で100%堆肥にすることが可能だ。重ねておけばスペースも取らない。製造費もプラスチック製より安価に済む。

「サーキュラー・デザイン・チャレンジ」の勝者である6つのプロジェクトは、今年初めからプラスチックに代わる素材やデザインの開発を推進する団体、「シンク・ビヨンド・プラスチック」の協力の下で、アクセラレータープログラムに参加し、商業化を目指している。これらプロジェクトに代表されるようなイノベーションが取り入れられ、使い捨てプラスチック製品からの脱却が加速化することを願いたい。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit