企業が利益だけを追求する時代は終わった。社会に対してどのような使命や責任を持つかが問われている。米American Expressが行った調査では、対象者であるミレニアル世代ビジネスパーソンの74%が「ビジネスを成功させるには、上辺だけでなく人びとが共感できるような使命が必要」と回答した。

共感を得るためには、使命やビジョンに対するアクションを行うこと、さらにそれを周囲に認識してもらうことが必要だ。そういった中で、3つの団体・企業がパートナーシップを組むことで、社会的な取り組みを実践しているプロジェクトがある。

トラの絶滅危機を救うファッションコレクションが登場

世界最大規模の環境保全団体・世界自然保護基金(以下、WWF)は、アジアNo.1のインターナショナルプレミアムビール・タイガービールとフランス・パリで日本人デザイナー高田賢三が設立したファッションブランド・KENZOとコラボレーションし、Rare Stripesコレクションで絶滅の危機に瀕している野生のトラにスポットを当て、トラを絶滅から救うことを目的とした「Rare Stripes Campaign」を2018年7月20日から展開した。

ここ100年ほどで野生のトラの多くが乱獲や生息環境の破壊などの影響を受けたため、生息数が約10万頭から3,200頭にまで減少したと推定されている。違法なトラの国際取引もあとを絶たず、アジアでは2000年から2015年の15年間で1,755頭のトラ製品が押収された。その取引額は年間200億ドルに及ぶ。トラの減少は生態系のバランスを崩す要因にもなるため、一刻も早い問題解決が必要だ。

「Rare Stripes Campaign」では、トラのデザインで世界的知名度を誇るKENZOが野生のトラ8頭の生涯をイメージした限定のファッションコレクション「Rare Stripesコレクション」を販売し、収益の100%をWWFの野生トラ保護活動の支援に充てる。

デザインを担当したのは、コンテンポラリーアーティスト兼彫刻家のメリル・スミス(Meryl Smith、米国)氏、イラストレーターでデザイナーのエスター・ゴー(Esther Goh、シンガポール)氏、イラストレーター兼版画家のジュリエンヌ・タン(Julienne Tan、タンザニア)氏、ビジュアル・デジタルアーティストのショーン・リーン(Sean Lean、マレーシア)氏の4名で、全員新進気鋭の若手アーティストだ。

KENZOの共同クリエイティブ・ディレクターであるウンベルト・レオン(Humberto Leon)氏とキャロル・リム(Carol Lim)氏とともにタイガービールが抜擢した。

タイガービールのインターナショナルブランドディレクター、ヴィーナス・テオ(Venus Teoh)氏は次のように述べた。

テオ氏:「WWFとパートナーシップを組み、KENZOや新進気鋭のアーティストと協力して制作したRare Stripesコレクションを通じて、世界中の人々に野生のトラが絶滅の危機に直面していることを伝え、保護資金を集めたい。当社のブランドマークでもあるトラを絶滅から救うために、ひとりひとりが行動を起こしてほしい」

「Rare Stripesコレクション」は、各アーティストが実在のトラのストーリーを表現した服を2種類ずつ展開し、着用するだけでトラの危機を伝えられるデザインに仕上げた。東京・銀座GINZA SIXのKENZOストアでの販売を実施した。

10万頭から3,200頭にまで減少した野生のトラの数を2倍に

WWFは、2022年までに野生のトラの数を2倍に増やすことを目的とした取り組み「T×2」を、トラの生息国であるバングラデシュ、ブータン、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、ロシア、タイ、ベトナムの13カ国の首脳級がロシアに集まって保護策を話し合った2010年の「トラサミット」のあとスタートさせ、トラの保護活動に注力している。政府当局やパートナー組織と協力しながら、密猟を罰する法律の強化や生息地の保全活動などに取り組んでいるのだ。

野生のトラの生息地を守るために、WWFはトラやトラの食物となる草食動物の調査を実施し、その主体となる森林レンジャーの育成、およびフィールドマニュアルの作成などを支援した。さらに、自然資源を保護するために、河川流域や森林の管理に必要な技術を習得する訓練も実施している。

こうした地道な取り組みが功を奏して、2010年には3,200頭にまで減少していた野生のトラが現在およそ3,900頭にまで回復した。

今回の取り組みについて、WWFのトラ保護プログラムのリーダー、マイケル・バルツァー(Michael Baltzer)氏は今回のキャンペーンに対する思いを語った。

バルツァー氏:「野生のトラの生息数を倍増させるグローバルな取り組みは、トラを絶滅から救う大きなチャンスです。今回のキャンペーンにより、さらに多くのブランドがトラの保護活動に関心を持つでしょう。Rare Stripesコレクションが人々の関心を高め、野生のトラ倍増計画の資金集めにつながると考えています」

ファッションは世界の共通言語でもある。絶滅の危機を迎えているトラのストーリーをモチーフにしたコレクションを身につけた人たちが歩くだけで、情報のシェアにつながるのだ。

テオ氏:「WWFとコラボレーションして初めて、野生のトラが絶滅の危機を迎えていることを知り驚きました。タイガービールのアイコンでもあるトラが絶滅の危機を迎えている今、私たちに何ができるのかと考えた結果、2022年までWWFとパートナーシップを結ぶことにしたのです。タイガービールはトラの保護活動に年間100万ドルを寄付しています。

昨年はアーティストと共同でクリエイティブプロジェクトを実施し、『#3890 tigers』というハッシュタグで啓発活動に取り組みました。そして今年、トラがブランドの象徴になっているKENZOとコラボレーションし、新たなチャレンジとしてRare Stripesコレクションを生み出したのです。より多くの人に着用してもらい、野生のトラの保護につながることを願っています」

企業の社会貢献が生み出す価値とは

社会貢献に企業として取り組むことに対し、タイガービールのヴィーナス・テオ(Venus Teoh)氏は同社が重視していること、そして今後に向けて次のように語った。

テオ氏:「もともとタイガービールはサステナビリティを重視していました。ただのビール会社ではなく、責任を持ったビール会社を目指しています。始めはファンディングから始まり、今は様々な人の問題意識を高めていくことを意識しています。

もちろん他の企業も参加してもらえると嬉しいので、私たちが良い例になればと思っています。今回はKENZOも一緒に取り組めてよかったが、2022年のWWFとの目標に向けて、他の企業もさらに巻き込んでいけるといいと思います」

企業としてサステナビリティを重視し、取り組みとして周囲の企業を巻き込みながら目標実現に向かう。また、KENZOのウンベルト・レオン(Humberto Leon)氏は、今回のパートナーシップを組んだきっかけと、パートナーシップを行うメリットについてこう述べた。

レオン氏:「KENZOはトラのデザインを50年くらい使ってきました。もともとトラの保護について関心をもっていて、WWFからトラを使っているというのを知ったうえで声をかけてもらえたときには、お互いのイメージは合致していました。

このようにパートナーシップを組んで行うことのメリットは、共通の目的に対してそれぞれのオーディエンスに情報を伝えることができる点と、専門性を活かせることです。トラの保護について関心があっても専門家ではないので、WWFのような専門性のあるパートナーと組むことで、補完しあうことができます」

パートナー企業選びの際には、相手が何を大切にしているかを理解して声をかける必要がある。今回WWFはKENZOの価値観を理解したうえで声をかけることで、パートナーシップに至った。またパートナーシップによって、専門性の補完とリーチの拡大が期待でき、相乗効果が生まれる。

商品がコモディティ化して差別化が難しい現代では、企業もブランド力を高めるために環境問題や社会課題解決に取り組むべきだろう。タイガービールは単なる寄付に留まらず、新しいトラのラベルを制作するなどして、消費者とのエンゲージメントを高めて活動の認知を促進した。

また、今回の3社のようにプラットフォームが異なる企業同士がコラボレーションすると、それぞれが今までリーチできなかった生活者にアプローチできる。WWFの活動がタイガービールやKENZOのファンに認知されるきっかけになるのだ。企業同士が合わさることで良い化学反応が起きる可能性は大いにあるだろう。

マーケティング会社Edelmanが発表したレポートによると、ミレニアル世代消費者の60%がブランドの社会問題に対するスタンスが自らの購買活動に影響を与えると回答した。

このことからも社会的な取り組みを実践することや広く発信することは生活者の購買にも影響を与え、企業メリットを生み出すことがわかる。企業は改めてビジョンや使命、そして責任について立ち返り、それに基づいた社会的な活動や姿勢をみせることが重要だ。

取材:木村 和貴
文:萩原 かおり
写真:西村 克也