中国では人工知能を活用した顔認識システムが猛烈な勢いで普及している。オンラインウォレットのログインや小売店・飲食店での支払いに加え、すでに警察の捜査にも活用されている。BBCによると、中国国内には1億7,000万台の以上の監視カメラが設置されており、顔認識システムの実用化・普及を支えているという。

最近では、30秒ごとに生徒の表情をスキャンし感情や集中度合いを読み取る顔認識システムが高校に導入されたとして議論の的になっている。

中国は国内だけでなく海外にも人工知能・顔認識システムを普及させる狙いがあるようだ。海外といっても、プライバシー規制が厳しい欧米諸国ではなく、比較的規制の緩いアフリカがターゲットだ。

その第一弾として選ばれたのがアフリカ南部に位置する国ジンバブエだ。

どのような経緯で中国が顔認識システムをジンバブエに導入することになったのか。中国の狙い、ジンバブエの狙いはどこにあるのか。中国ーアフリカ関係の未来を占う最新動向に迫ってみたい。

中国と蜜月関係、ジンバブエが人工知能を導入する理由

2018年5月17日、中国政府の機関紙である人民日報の国際版英字紙グローバル・タイムズは、広州市を拠点とする人工知能スタートアップ、CloudWalk Technologyがジンバブエ政府と大規模顔認識システムの構築で戦略提携を締結、これがアフリカへの人工知能輸出の第一歩となるだろうと報じた。また、今後アフリカへの人工知能輸出は「一帯一路」構想の一環でさらに進められる可能性を指摘している

アフリカは中国の「一帯一路」構想で重要視されている地域で、中国の対アフリカ投資はこの数年で爆発的に増加している。今回のジンバブエでの人工知能プロジェクトは、鉄道や道路などのハードインフラだけでなく、顔認識システムなどを活用したソフトインフラへの投資増大を示唆するものと考えられる。

実際グローバル・タイムズによると、ジンバブエ政府は顔認識システムだけでなく、インフラ、テクノロジー、バイオロジーなどを含む包括的なパッケージプランを求めているという。

ここでジンバブエとはどのような国なのか、その概要を紹介しておきたい。

アフリカ南部に位置するジンバブエ。面積は39万平方メートル。38万平方メートルの日本と同等の面積を有している。一方、人口は1,400万人ほどと日本の10分の1にとどまる。GDPは193億9,500万ドル(約2兆3,000億円)で、セネガルやボツワナなどと並ぶ規模だ。

ジンバブエは英国の植民地であったが1980年に独立。しかし、独立後はハイパーインフレやクーデターなどが続き、政治・経済・社会的に不安定な状況が続いている。2018年6月24日には、同国ムナンガグワ大統領が開催した集会で爆発が起こり数名が負傷。大統領を狙った暗殺未遂と報じられている。

ジンバブエ政府が顔認識システムを導入したい理由の1つにこのような事件を未然に防ぎたいという狙いがあると考えられる。実際、CloudWalkが強みとするのは、顔認識技術を活用した犯罪予測システムだ。

CloudWalkとジンバブエ政府の提携に先立つ2017年には、中国の防犯テクノロジー企業Hikvisionがジンバブエ企業と提携し、防犯カメラの供給を行うことを取り決めている。このことからも、ジンバブエが人工知能を活用した中国の警察モデルを導入する可能性が高いと推測できる。

今後、ジンバブエ政府は、顔認識システムのためのデータベースをCloudWalkに提供する予定になっている。データベースが提供されるまで、CloudWalkは当面自社でデータ収集を行うという。

人民元の国際化でもジンバブエがカギとなる?

中国とジンバブエのこれまでの関係を探っていくと、中国がアフリカ展開を加速させる上でジンバブエを重要視していることが見えてくる。

2015年12月、中国はジンバブエに貸し付けていた借款4,000万ドル(約40億円)を帳消しにした。それを受けてジンバブエ政府は人民元を法定通貨にすることを決めたのだ。

ジンバブエでは、もともと独自通貨ジンバブエ・ドルが利用されてきたが、2003年以降ハイパーインフレに突入、2008年にはインフレ率5,000億%に達し、ジンバブエ・ドルは紙切れ同然になってしまった。ジンバブエ・ドルは廃止され、米ドルを含めた複数の国外通貨が利用されるようになったといわれている。人民元も使われていたようだが、公的なトランザクションでの使用は認められていなかった。

人民元がジンバブエの法定通貨に認定されたことは、アフリカの多くの国に影響を与えていると考えられる。

2018年5月、アフリカ14カ国の中央銀行会総裁らがジンバブエに集まり、各国の外貨準備などについて話し合われた。このとき人民元を外貨準備に組み込むのかどうかが議論されたと報じられている。アフリカの最大の貿易相手国が中国であり、多くのアフリカ諸国が中国から借款の供与を受けたり、投資を受けているため、人民元を持つことにメリットがあると考えているようだ。

2018年に入り、中国の人民元国際化の動きが再び活発化しているという報道が多くなっている。人民元国際化においてアフリカが重要な役割を果たすのは間違いないといえるだろう。アフリカは高インフレに悩む国が多く、それらの国々がジンバブエの二の舞を演じないとは言い切れない。自国通貨が不安定になった場合、米ドルではなく人民元に頼る可能性が大いにあるといえるだろう。

以前お伝えしたとおり、中国のアフリカ投資は欧米諸国を上回り、1万社以上の中国企業がアフリカに進出、また中国語を学ぶアフリカ人学生が急増するなど、さまざまな側面で中国とアフリカの関係は緊密化している。さらに今回紹介した、人工知能を活用したソフトインフラの輸出、人民元の法定通貨化、外貨準備への人民元組み込みなどを考慮すると、両国の関係は今後より一層深化していくことになるはずだ。

文:細谷元(Livit