機能的かつエッジの効いた切り口で知られるオランダのデザイン。オランダ南部の都市アイントホーフェンで毎年秋に行われるダッチ・デザインウィーク(DDW)はオランダ最大のデザインイベントだ。

DDWでは毎年先鋭的なデザインや素材が展示されるが、2018年の開催で特に目立ったのが「ガムのゴミ」「大気汚染物質」「動物の廃棄血液」といったいわゆる「汚いもの」を原料として作った新素材を、デザイン性の高い商品に仕立てるという展示だ。

デザイン大国オランダでトレンドとなりつつある、リサイクル、アップサイクルを超えた新たな素材作りの姿を紹介する。

道にポイ捨てされたチューインガムのゴミから作るスニーカー


スニーカーの裏がアムステルダムの地図になっている

まず一つ目は、ポイ捨てされたチューインガムのゴミを集めてスニーカーの靴底に生まれ変わらせた、その名も「Gumshoe」 。

オランダでは年間150kg以上のガムが路上に吐き捨てられ、その清掃のために多額の税金が使われている。この問題をイノベーティブな方法で喚起すべくアムステルダム市が行ったのが、ガムのゴミを新素材として活用すること。

オランダのファッションブランドExplicit、ガムのリサイクル技術を持つGum-tecと共同で、ガムのゴミから作った特殊なゴムを靴底に使ったスニーカーを開発。スニーカー本体には上質なレザーを使い、靴底にはアムステルダムの地図をあしらった。


インスタグラムなどでシェアしたくなるデザインが施されたガム専用ゴミ箱(Our Worldより)

このデザイン性と社会的意義を兼ね備えたスニーカーGumshoeはエコ意識の高い人々の間で話題になり、2018年6月末の発売開始から数週間で完売状態に。新たにガム専用のごみ箱が設置され、路上にポイ捨てされる前にガムが回収される仕組みもでき始めるなど、大きな動きとなりつつある。

大気汚染物質から作った釉薬で仕上げた食器


DDWで展示されていた「Ser-Vies」の食器。大気汚染物質の釉薬で焼き上げている

次に紹介するのは、大気中の有害物質を集めて食器の釉薬に変える「Ser-Vies」の事例だ。


汚染物質を回収し、パウダー状にして素材にする様子を紹介するSer-Viesのビデオ

彼らはオランダ第2の都市ロッテルダムの中でも最も「汚い」場所で、道路や高架などに付着した粉じんを収集。これを乾燥させてパウダー状にし、陶器の焼き上げ前に吹き付ける釉薬として使うのだ。もちろん安全性は確認されていて、焼き上げ後に有害物質が食器に染み出してくることはない。

大気汚染物質で作られた黒い釉薬は、焼き上げると褐色に変化する。この釉薬が掛けられた食器は、「汚いもの」から作られたとは思えない程、自然で温かみのある風合いに仕上がっている。

Ser-Viesはこの食器に、人々が大気汚染や自分の健康について意識を高めるような仕掛けをしている。人が体内に取り込む大気汚染物質の量を、年数ごとに釉薬の色の変化で表しているのだ。


人が体内に取り込む大気汚染物質の量を釉薬の色の濃さで表している

大気汚染によって自然環境はもちろん、人間の体もダメージを受ける。オランダ国立公衆衛生環境研究所の調査によると、何千人ものオランダ人の死期が大気汚染の影響で平均9か月早くなっているという。

自分が生活している中で、一体どれだけの有害物質を空気中から取り込んでいるのか可視化したのが、上の画像にある5つのカップだ。ロッテルダムに住む人が体内に取り込む大気汚染物質の量を、左から10年、25年、45年、65年、85年で計算し、その量に応じた釉薬を掛けて焼き上げている。年数が増えるにしたがってカップの色が濃く、黒っぽくなっていく様は、自分の体に有害物質が蓄積されていくことを想起させる。

日常生活で手にし、口にする食器に、大気汚染物質由来の新素材を使うことで、人々が環境や健康に向き合う機会を誘発するのがSer-Viesの狙いなのだ。

屠殺場(とさつじょう)で廃棄される動物の血液を原料とするインテリア小物


牛などの廃棄血液から作られた「Blood Related」のインテリア小物

さらにショッキングな新素材は動物の血液だ。アイントホーフェンにあるデザインアカデミー出身のプロダクトデザイナーBasse Stittgenが手掛ける「Blood Related」シリーズでは、家畜の廃棄血液を原料としてインテリア小物などをつくり出している。

屠殺場では動物の血液が廃棄物として毎年何百万リットルも発生する。これまで生き物の血液を原料として使うことはタブーという暗黙の了解があったが、Basseは「あえてそのタブーに挑戦する」と、バイオ素材としての血液に光を当てようとしている。Basseの挑戦はデザイン界でも注目を集めており、DDWで発表された2018年のNew Material AwardでNew Material Fellowを獲得した。

Blood Relatedの製品ラインナップはキャンドルホルダーや豆皿、アクセサリーボックスなど多岐に渡り、アースカラーでどんなインテリアにも合わせやすいシックなデザインになっている。New Material Fellowの受賞者には賞金に加え、半年間オランダ建築協会のサポートがつくため、今後のさらなる展開が期待されている。

不用品から作られた素材×高いデザイン性の両立がキーワード


廃棄デニムやコーヒーフィルターなどをアップサイクルした「Unusual Chair」

DDWではその他にも廃棄物を素材としてアップサイクルした家具や生活用品の展示が多く見られた。

アムステルダムのデザインスタジオPlanqが手掛けるイス「Unusual Chair」は、座面に廃棄デニムや麻製のコーヒーフィルターを使用。ミッドセンチュリー調のフレームと合わせることで、先鋭的になり過ぎないコンテンポラリーデザインに仕上がっている。

フィリピンの漁村で廃棄されているフィッシングネットを回収してカーペットタイルに仕立てたInterface社の「Net Effect」は、すでに定番商品化されてマーケットに広まっている。素材であるフィッシングネットに由来し、海や波を想起させるデザインだ。


古いTシャツなどをリサイクルして作ったコットンロープ「T-Slagerij」

カラフルな色使いが目を引く「T-Slagerij」は古いTシャツをリサイクルして作られたコットンロープだ。オランダ発の布製品といえば、縫製工場での裁断余分布から作られたHooked社の編み糸Zpagettiも、そのデザイン性の高さから日本のクラフト好きの間でブームになったことがある。

このようにオランダ発のリサイクル・アップサイクル製品はいずれもデザインにこだわりが感じられ、消費者の環境意識に関わらず、純粋に「クールだ」「欲しい」と思うような仕上がりとなっている。現在のダッチデザイン界においては、デザイン性とエコフレンドリー性を高いレベルで両立させることが、もはや必須要件となっているようだ。

人々の環境意識が高いオランダでは、不用品を原料とした一通りのリサイクル・アップサイクルはすでに社会に定着したものとなっている。2018年のDDWで見られた「汚いもの」を素材として活用するというトレンドは、リサイクル・アップサイクルの更に先を行くというオランダデザイン界の意気込みが感じられるように思う。

ゴミや大気汚染物質、さらには動物の血液といった一見「汚い」と敬遠しがちな廃棄物に、イノベーティブな素材としての可能性・付加価値を見出しつつあるオランダのモノづくりが世界にも波及するか、今後の広がりに注目したい。

取材・文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit