2018年9月、カリフォルニア州で全米初のプラスチック製ストローの提供を原則禁止とする法案にブラウン知事(当時)が署名した。そのニュースは日本でも情報番組などで広く紹介されていたことは記憶に新しいだろう。その法案は2019年1月、施行された。

米国各州は州政府独自の法規制がある。カリフォルニア州では気候変動否定論であるトランプ政権をよそに、環境や動物福祉の分野で世界に先駆けた様々な取り組みを開始している。それを可能にしているのが国家レベルの経済力だ。シリコンバレーを中心とするテクノロジー産業をはじめ、ハリウッドではエンターテインメント、金融、不動産、農業など強靭な産業構造によって同州は支えられている。


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米商務省経済分析局の発表(2018年5月4日)によると2017年の同州の州内総生産額(GSP)は2兆7,470億ドル、並みいる先進諸国を抑えての世界5位。前年5位だった英国を抜き、米国、中国、日本、ドイツに次ぐものだ。米国内のGSP2位のテキサス州(1兆6,962億ドル)に1兆ドル以上も差をつけている。

同州で2018年発表または2019年に施行される先進的な取り組みを探ってみた。

化石燃料全廃し、2045年までに100%クリーンエネルギーへ。


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2045年までに州内の電力の100%を再生可能なクリーンエネルギーで賄う法案が9月に可決された。現在のところ再生可能エネルギーは29%だ。これを2026年までに50%、2030年に60%引き上げ、その後27年で100%達成を目指すというもの。


カリフォルニア州発電割合
Source : California Energy Commission

カリフォルニアの環境擁護団体であるEnvironment Californiaの局長Dan Jacobson氏は「これは気候変動の悪化を防ぐ画期的な法律」と高く評価している。

同州では2016年に州の二酸化炭素排出量を2030年までに1990年比40%削減すると定めている。同州での排出量の多いのは交通・輸送、そして建築物。それらに対して、今回より具体的な政策が提示されたということだ。

交通・輸送分野では2029年までにガソリンとディーゼルの公共バス(スクールバスを除く)が廃止される。それにより2023年以降、段階的に電気バスの購入が組織に求められることになる。


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個人が所有する車についてはZero Emission Vehicle Programを推進して同州では、2030年に同州登録自動車のうちゼロエミッション車(排ガスを出さない自動車)を400万台とする目標を掲げている。

建築基準法の改訂では2020年より全新築住宅への太陽光発電システムの設置が義務付けられた。住宅ローンの平均月額約40ドルが支払いに追加されるが、光熱費を毎月約80ドルの節約ができるだろうと州政府は試算している。

動物福祉にも注力、保護動物以外のペットショップでの販売禁止は全米初


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2019年1月、動物福祉の分野でも全米初となる州法が施行された。ペットショップは動物保護施設から受け入れた子犬、子猫、ウサギ以外を販売することができなくなった。これに違反すると1頭につき罰金500ドルが課される。またこれは子犬工場や子猫工場と呼ばれる悪質な繁殖者を排除することを目的としている。

米国ではペットを所有する世帯が過去20年間で10%以上増加している。一方で650万頭ものペットが保護施設に収容され、毎年約150万頭が殺処分されているという。アメリカ動物虐待防止協会(The American Society for the Prevention of Cruelty to Animals)はこの州法について高い評価と厚い敬意をブログで綴っている。

さらに2020年1月以降、動物実験が行われた化粧品の輸入・販売が違法になる。EU28カ国、ノルウェー、インド、イスラエル、ニュージーランドでも同様の措置がとられ世界的な流れになっているが、米国では同州が初。罰金は5,000ドル、違反が続いた場合は1日ごとに1,000ドルが追加罰金として課される。

米政府と一線を画す、先進的な独自政策を守る「強い力」とは


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世界には類似の環境対策や動物保護策を掲げている国家や大都市があるが、同州の取り組みは行政単位としては最大級だ。それを可能にしているのは、やはり同州の経済力だろう。代替および再生可能エネルギー、先進自動車技術に関する615のプロジェクトへの投資額は10年間で7億5,000ドルを上回っている。

さらに一般家庭の水利用を規制する法制度(干ばつによる水不足等に備えるため)、NASAと大気汚染源を特定する衛星の打ち上げ計画なども発表。聖域州として移民に対する緩和策をとっている。化石燃料の復活や環境規制の緩和、移民排除を進めるトランプ政権にとってはことごとく反発する困った州であることは違いない。

2018年9月12〜14日には、パリ協定離脱を表明しているトランプ政権に代わって世界各地の自治体・企業に呼びかけた国際会議「グローバル気候行動サミット(GCAS)」を同州主催で開催。環境分野で世界の人々を動かし、その先進的な取り組みで耳目を集めている。

この州の産業とポリシーを守りながら次代を見据えた取り組み、そしてトランプ政権や旧態依然とした業界との攻防に世界はこれからも注目していく。「キャレグジット(Calexit)」※という言葉が誕生したのも、カリフォルニア州の政策と経済が絶好調の証だろう。米国のいち自治体と、あなどってはいけない。もしかしたらカリフォルニア州が米国のリーダーシップを取る日がやってくるかもしれない?

※英国の欧州連合(EU)離脱を指す「ブレグジット」を由来とする、米カリフォルニア州の合衆国からの独立を目指す運動。

文:羽田理恵子
編集:岡徳之(Livit