【ダイヤモンドメディアの人事制度】

〇社長役員は選挙で決める

【制度内容】
年一回、社長役員を社内で選挙をして決める制度。今年は社員一人が持つ投票権は一票(代表のみを選挙で決定)。

自推・他推、変化し続ける選挙制度

ダイヤモンドメディアでは、毎年一回「社長役員を選挙で決める」という取り組みをしている。そこで、どういった方法で選挙を行っているのか、社長役員を選挙で決める不都合はないのかなどを、同社の関戸 翔太氏(以下、敬称略)と岡村 雅信氏(以下、敬称略)に伺った。

────まず、どのような制度なのかをお聞きしたいと思います。

岡村:社長役員を社員の投票で決める制度です。毎年1回、4月~5月頃に行っています。社長候補に必ず票は入れてほしいのですが、役員は投票してもしなくても良い自由投票でやっています。

実は、制度を導入してから選挙のやり方が年々変化していまして、役員の投票を行わず社長だけ決めたり、紙の投票からWEB投票にしたり、社外投票を導入した時期もありました。だから、きっちり制度を決めて行っているわけではなく、その時々でベストなやり方を模索して導入しています。

────社外の人でも投票できる時期があったんですね。

岡村:そうですね。WEBに選挙用のページを作っていて、そのページからなら誰でも投票できる時期がありました。ただし重要なのは社内の投票で、社外投票はイベント的に受け付けていた感じです。今年はシンプルに社内だけの投票のみにしました。


2018年 役員選挙サイト WEBページ

────投票の際は立候補者がいてそのなかから選ぶのではなく、社員なら誰でも良い?

岡村:昨年までは立候補なしで「社員なら誰にでも投票して良い」という形でやっていました。

しかし、それが組織的に最善なのかと疑問があったんです。そこで今年は大幅に制度内容を考え直し、立候補制に変更しました。

────誰にでも投票できるとなると、昨年までは票がばらけませんでしたか?

岡村:多少はばらけましたが、ある程度は特定の人に集中していましたね。うちの会社には、デザイナーとかディレクターという職種はありますが、課長とか、専務とか、明確な役職はないんです。株式会社なので代表は必要ですが、最小限の役職のみで運営しています。そんな環境のなかで仕事をしていると「社長・役員になるならこの人だな」という人が自然と生まれてくるんです。

あと、この制度を始めた当時は社員が10人くらいしかいなかったので、わざわざ立候補しなくても問題にならなかったんですよね。そういう理由もあって、立候補制にはしていませんでした。

────なるほど。でも、今年から立候補制に変わったんですね。

岡村:これまでは立候補なしでやってきて、結果として体制に変化は生まれませんでした。だから、選挙が機能しているのか、惰性で選挙をやっているだけで意義が形骸化しているのがわからなくなっていたんですよね。

関戸:はじめの1年、2年は面白いんですけど、だんだん飽きてきちゃうんですよ。開催するとなると手間暇もかかるし。

岡村:だから立候補もありかなと思って、今年から立候補制に変えました。立候補制だから、推薦されても立候補するか辞退するか選べます。色々と選挙の雰囲気は変わりましたね。

立候補者は選挙期間中に社内でプレゼンをしました。はじめてなので、特に内容に縛りはなく、各々が考えたことを話してもらって、社員がそれを聞いて誰に票を入れるか決めるという流れです。

透明に見えて不透明さも。選挙制度への葛藤と期待

────選挙をするとなると、毎日の業務プラス選挙の準備が必要になりますよね。ぶっちゃけ、めんどうじゃないですか?

岡村:すごく面倒です(笑)。選挙用の投票フォームを作ったり、投票を忘れている人にはリマインドをしたり。外部投票を受け付けていた時期は、外部向けウェブページを作ってプレスリリースを配信したり、SNSで宣伝もしていたのでさらに大変でした。

────そういう面倒な作業が増えてでも、選挙はした方が良いと思いますか?

関戸:今まで結構な時間を制度に使っていますが、それでも続けていることが答えなのかなと思います。

ただ、うちは選挙以外にも制度設計や組織づくりに力を入れているんですが、どのくらい時間を使うとかは決めていないんです。その結果、トータルでかなり時間がかかってしまっていて…。そこは今後変えていきたい部分ではあります。

岡村:仕組みとして成り立っているなら、あった方が良いと思うんです。透明性が高い会社が良いという話なら、「社長役員を選挙で決める」という制度は大きな意味があると思います。

ただこの制度って、会社の人全員が「役員なんて誰でも良い」と思っているとしたら、やってもやらなくても同じなんです。それで負担も大きいとなると、その分の時間を仕事に費やした方が会社としては健全かもしれない。そういった考え方はあります。

外から見れば良い制度に見えるかもしれませんが、実際に制度を運営する側となると、色々と考えてしまいますね。

────「社長役員を選挙で決める」って聞くとすごく良いイメージを持ちますが、運営する側としてはメリットばかりではないと。

岡村:投票しても同じ人が選ばれることが多いので、投票の手間だけ増えているのではないかという思いもあるんです。

「社長役員を選挙で決める」と言っても、毎回代わる必要はありません。毎回代わることが正しいというわけでもない。しかし、選挙が機能していて役員が代わっていないのか、みんな誰でも良いと思っているから同じ人に投票していて、役員が代わっていないのか、それがわからないんです。そういう葛藤はあります。

関戸:選挙制度だけで見ると、ポジティブかネガティブかわかりにくいですが、この選挙制度があるからこそ、役員人事に対して社員が考える機会が1年に1回あるっていうのは、価値があると思っています。

当社は創業11年目のベンチャー企業なので、社長役員が代わった事自体、まだ数回しかありません。選挙の結果だけを受けて役員人事が変わったという実績はまだないのですが、選挙があるからこそ、「代わるべき人が、代わるべきタイミングで社長役員になれている」と思うんです。役員が代わると社内の雰囲気や判断軸も変わりますし。

選挙はチューニングだと思うんです。ちょっとずつ、良い方向へ向かっていく。そのためにやり方を変えつつ、試行錯誤しているんだと思います。

────社長役員を誰にしようか考えたり、社長一人しか役職がいない時期があったり…そういうのは、選挙制度があるからこその体験ですね。

関戸:だから、選挙を続けていて良かったなと思います。過去を振り返ると、あの時期に代わっていなかったら、会社がダメになっていたんじゃないかと思うこともあるんです。選挙があるからこそ、今のダイヤモンドメディアがあると思います。

「社長になっても仕事は変わらない」選挙制度だからこその価値観

────いきなり社長や役員になると、仕事はガラリと変わりませんか?負担が増えたりしないのでしょうか。

関戸:うちの会社は、「代表だからこの仕事」「役員だからこの仕事」といったような、肩書や役職で仕事が与えられる概念はほとんどありません。だから、役員になって業務が突然変わることはないですね。会社として「役職で与えられる仕事は可能な限り減らしたい」という前提があるので。

とはいえ、銀行とのやり取りとか、社会の一部として肩書が必要な仕事はあります。そういう意味で、肩書が増えると仕事の内容が少し変わるかもしれません。ただ、増えたとしても最低限です。

岡村:仕事内容が変わる前提で選挙はしていません。しかし、どうしても変わっちゃう部分はありますね。例えば、社外の人が社長に取材に来るとなったら、別の人では対応出来ないので、そういった場合は防げません。でも社内的には「社長になったからこれをやるべきだよね」というのは考えないようにしています。

選挙を通して、変わるべきときにベストな人材を

────今後、選挙制度を使っていくなかでどんな会社になってほしいなど、期待していることはありますか?

岡村:最適なタイミングでベストな経営体制に変化できることだと思うんです。フェーズが変わると求められるものも変わるから、選挙をして常にその時にベストな経営者を選び続けられるのは最大のメリットだと思っています。だから、今後も選挙制度を通してベストな状態を考えていきたいと思います。

関戸:選挙を通して、普段ふれにくい部分も話し合えるのは良いなと思っています。たとえ代表が変わったからといってすぐに結果が伴うわけではありません。1年後、2年後になって結果がついて来ない限りわからないことだと思っています。だから、どういう結果であれ、「良い判断だった」と思えるようにみんなで頑張っていきたいです。

【今回取材させて頂いた会社】
ダイヤモンドメディア株式会社
不動産仲介業者・管理会社・不動産オーナー向けサービスを開発・提供するテクノロジーベンチャー。不動産業界唯一の「リーシングマネジメント」に関する業界横断コミュニティ『リーシングマネジメント研究会』の事務局も務める。第3回ホワイト企業大賞 「大賞」受賞。「給与・経費・財務諸表を社内に全て公開」「働く時間・場所・休みは自分で決める」といった独自の企業文化は、「管理しない」マネジメント手法を用いた日本初のホラクラシー企業、ティール組織としても注目されている。

文:成田千草
写真:國見泰洋