世界で盛り上がりを見せる観光産業。それに伴い、旅客数が急増することが見込まれている。しかし、近年の環境意識の高まりによって、旅客数の増加は見込み通りにならない可能性も見えてきた。それを示すのが環境先進国のスウェーデンである。

スウェーデンでは2018年の流行語大賞に「飛ぶことは恥だ」という意味の「Flugskam」が選ばれている。2006年にすでに欧州諸国内で最も少ないCO2排出国となっており、もともと欧州でも環境についての関心が高いスウェーデンであったが、近年では15歳の環境活動家Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)氏の活躍が記憶に新しいだろう。

「Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)」とは

トゥーンベリ氏は2003年生まれ、現在16歳の地球温暖化と気候変動の阻止を求める若い活動家である。2018年8月にスウェーデン議会前で15歳の彼女は、 「Skolstrejk för klimatet(School strike for the climate:気候変動問題のための学校ストライキ)」という大きなプラカードを持ち、一人で座り込んでストを行った。

2018年の8月はヨーロッパ全体で熱波で被害があり、さらにスウェーデンでは山火事が問題になっていた。その後クラスメートたちもストに参加し、同年の総選挙が行われる9月9日まで授業をボイコットするとしたが、その総選挙の直前の9月7日に「金曜日だけストをする」という「FridaysForFuture」という学校ストにシフト。

この活動はオーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、オランダ、イタリア、スペイン、ドイツ、フィンランド、デンマーク、日本、スイス、イギリス、アメリカなど世界各地に広まった。さらに今年5月の欧州議会選挙に合わせ、125か国、1600以上の市町村でデモ活動が行われた。

環境活動家グレタ ・トゥーンベリ:「世界経済フォーラム(ダボス会議)2019」スピーチ

この一連の動きは2015年にフランス・パリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、気候変動に関する2020年以降の新たな国際枠組みである「パリ協定(Paris Agreement)」が採択された際に、会議の初日に世界のあちこちで学生が環境問題を訴え、道で声を高く上げたことに発端している。

パリ協定では世界共通の長期目標として産業革命からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑えるという目標の設定や、すべての国による削減目標の5年ごとの提出・更新などが位置づけられた。それを踏まえてトゥーンベリ氏は「すでに環境保全をする方法は解明されている。それをただ実際にアクションしていくだけだ、今なら環境保全はまだ間に合う」と訴えている。

トゥーンベリ氏自身は2019年1月の世界経済フォーラムでの気候変動問題運動の一環として出席者の多くが総計約1,500機にも及ぶ個人所有プライベートジェットで来たのを横目に、往復で65時間をかけての鉄道を使って開催地であるスイスのダボスに到着した。結果、この様子は大きくマスコミに取り上げられることとなった。

データで見るスウェーデン人の環境意識変化

2019年4月のスウェーデンの空港利用者数は2018年の同月と比べると8%も減少している。

また、Flugskamやflight shame(飛行機に乗ることは恥ずかしいことだ)から派生して、ハッシュタグ#flyingless(飛ばない)も広まり、スウェーデンで広まったハッシュタグ #jagstannarpåmarken(わたしは地上に残る)も同格に使われている。

また、スウェーデンの主要な空港運営会社である「スウェダヴィア」は、国内線の乗客数が2018年はその前年と比べて3%減少したと発表した。

今年5月にスウェーデンの鉄道会社SJが発表したアンケート調査の結果によると、人々が環境に考慮したうえで、飛行機での移動をやめ、アンケートの全回答者の37%が空路でなく鉄道を使っての移動を選択したという。前回の調査2018年秋の26%、2018年初めの20%と比較して、飛躍的に伸びた。

また、全体的に鉄道利用者が増えたことが何よりも要因だろうという分析もされている。実際、全体の鉄道利用者数は昨年と比較して5%が増加し、3,180万人になったが、今年の第1四半期だけを見ると、さらに8%増加し、その中で出張だけに絞ってみると12%も増加した結果となった。

さらに同調査では、スウェーデン人の10人のうち6人(57%)が、「スウェーデン国内を旅行する際には、環境問題について考慮する」と回答している。鉄道と車での移動を比較した質問に関しても、アンケート回答者の27%が「車より鉄道を選ぶ」と答えており、これは2017年秋に行った調査時の20%から増加している。

夏のバカンスの移動方法に関しても、昨年は「夏のバカンスは鉄道で行くべきだ」と回答した人が58%だったのに対し、今年の調査では65%に増加した。

このようにスウェーデンの人々の環境意識が高まる流れの中で、激しい競争を行っている航空会社も、この気運を無視することができなくなっているのが現実であり、航空会社自身も「環境にやさしい」というイメージを作らなければならないという壁に直面している。

電動航空機の開発

世界各国の航空機メーカーはこの課題を十分に認識しており、電動航空機、すなわち、電池や電源ケーブル、太陽電池などを使った電動飛行機の開発を進めている。

乗り物の電動化はハイブリッド車や電気自動車など、自動車の分野ではかなり開発が進んでいるが、世界の航空輸送に関する基準の策定等を行う国際民間航空機関(ICAO)や世界の航空会社・旅行会社・旅行関連企業などで構成される国際航空運送協会(IATA)なども、2050年には、2005年の二酸化炭素排出量を半減させるという目標を掲げている。

E-plane “eFusion” takes off with Siemens drive system

今年4月には航空機メーカー大手フランスのAirbus(エアバス)が、電動推進力で飛行する「電動航空機」の研究開発プロジェクトに数億ユーロ(日本円で約数百億円)を投じると発表した。

今年6月には英航空機エンジン大手のRolls-Royce(ロールス・ロイス)が、ドイツのSiemens(シーメンス)から航空機向けの電気駆動部門を買収することで合意したと発表。これは、電気駆動エンジンを持つ「空飛ぶタクシー」の開発を航空各社が競う中、次世代のエンジン開発を強化する目的のためである。

ロールス・ロイスはエアバスとシーメンスによるハイブリッド飛行機「E-Fan X」の開発連合にも参画しており、2017年4月に電動航空機の世界最速記録をマークしたシーメンスとは電動航空機の分野で協業済みである。

また、北欧3国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー)が共同で運航する航空会社スカンジナビア航空(SAS)も将来のハイブリッド、そして電動航空機のエコシステム構築に関して、航空機メーカーのエアバスと共同研究を行うこととし、その覚書に調印したと今年5月に発表した。2030年までにCO2ガスの排出を25%減らすことを目標としている。

日本でも今年6月にデンソーが、電子制御システムや自動化機器を製造販売する多国籍企業のハネウェル(本社アメリカ・ニュージャージー州)と電動航空機用推進システムの共同開発を開始したと発表したので、こちらも注目したい。

環境破壊により2050年まで地球はもたないという研究レポートも明らかになってる現在、日本から海外に行くのに飛行機は不可欠かもしれない。しかし、自分の身近なところで何かできることはないのか、まず考えてみたい。

文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit