AIの導入やモノのインターネット化、自動化による影響は、日本でもビジネスシーンで少しずつ現れ始めている。海外の事例を鑑みると、この変化はさらに加速することが見込まれている。

世界最大級のビジネス特化型SNS Linkedin(リンクトイン)の調査によると、2014〜2018年の間の4年間で、アメリカの労働市場では、AIなど先端テクノロジーに関する職業が大幅に増加していることが判明した。

本記事では、Linkedinの調査結果を参考にアメリカの労働市場ではどのようなスキルや知識が求められてきているのか、テクノロジー人材はどのような企業に集中しているのか、そしてその傾向は今後、我々にどのような作用をもたらすのか、などの考察と動向をお伝えする。


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米労働市場で最も増加率が高かった職業トップ10

6億人近くのユーザーをもつ世界最大級のビジネス特化型SNSリンクトイン。今回の「米労働市場で急速に需要高まる職業レポート」は、Linkedin Economic Graphが、2014年から2018年の間に集められたLinkedinのデータを使用し、労働経済を明らかにするリサーチと分析することにより作成された。

Linkedin Economic Graphはアメリカだけでなく、オーストラリアやインド、マレーシアなどの各国でもレポートを作成し公開している。

2014〜2018年の間に、アメリカの労働市場でもっとも増加した職業トップ10は以下の通り。

  1. ブロックチェーン開発者
  2. 機械学習エンジニア
  3. ITソリューション営業
  4. 機械学習スペシャリスト
  5. 医療関連営業
  6. 金融関連コンサルタント
  7. データサイエンティスト
  8. 監査法人スタッフ
  9. 販売促進部員
  10. ビジネス支援コンサルタント

堂々の1位に君臨したのは、ブロックチェーン開発者。2014年比で3300%も伸びたことが明らかになった。

3300%増、というのは分かりやすく言うと、2014年に1人のブロックチェーン開発者の需要があったものが、2018年では33人の比率になっているということだ。この驚くべき増加率は、2位の機械学習エンジニアに約3倍もの差をつけている。

ブロックチェーン開発者に必要なスキルは、スマートコントラクト開発言語Solidityやブロックチェーン、イーサリアム、仮想通貨関連の技術、Node.jsのスキルだ。これらの開発者が働く企業の代表として、IBM、ConsenSys、Chainyardなどが挙がっており、ブロックチェーン関連ソフトウェア技術ソリューションが提供される企業で需要が多い。

次いで増加率が最も大きかったのが、機械学習エンジニアで2014年比1200%増。2014年に1人の機械学習エンジニア需要があったものが、2018年では12人に急増しているという比率だ。

機械学習エンジニアは、深層学習、機械学習、自然言語処理の知識に加え、Googleが開発しオープンソースで公開している機械学習に用いるためのソフトウェアライブラリTensorFlowや、クラスタコンピューティングフレームワークApache Sparkなどの知識が必要な職種だ。彼らが働く企業の代表として、Apple、Intel、NVIDIAなどコンピューターハードウェア企業が名を連ねる。

3位はテクノロジー関連の営業職で800%増。ソフトウェア全般の知識が必要なこの職種は、Oracle、AT&T、Avayaなどの大企業から、ソフトウェアソリューションを提供する中小企業でもで多く雇用されている。

上位ランクを概観してみると全般的に、AIやデータサイエンティスト関連の職種が軒並み伸びている。これは、企業におけるAI・データ活用が進んでいることを示唆している。

ソフトスキルを兼ね備えた新技術スペシャリストやソリューション営業の需要

まず、今レポートの考察として、レポートの上位15位の内、6つが関連する職種となった人工知能へのニーズは顕著な傾向だ。AIに関連するスキルはテクノロジーだけでなくあらゆる産業に浸透し始めており、継続的な成長が全業界で見込まれる分野だ。

以下の表は、ソフトウェア業界のみならずAIが製造業から金融サービス業まで、ほぼすべての産業分野に渡り適用されている伸びを2015年からの3年間記録している。AIアプリケーションが適用され、それに関する人材も必要となることを示唆している。 


LinkedIn 2018 Emerging Jobs Report

それと共に、基本的なビジネススキルの需要も急増している。AIに任せられる部分とは別に、人の力として置き換えることはできない分野もある。

たとえばマネジメントのアシスタント、監査業務スタッフ、販売促進担当者などの昔からある業務部門は、急成長する職種にランクインしている。営業も業種によって多くの需要が成長している。これらは、AIではできないような人としての能力が再認識され、必要とされている職種だ。

一方で、Linkedin Economic Graphsの調査では、「需要の多い職種に対して、最大のスキルギャップが生じているはソフトスキルだ」という結果も出ている。

技術的な役割は職種で表れているが、口頭でのコミュニケーションやリーダーシップ、マネジメントスキル、時間管理などのソフトスキルは、それ以外に最重要とされるスキルであり、これが欠けている場合も多いという。

採用の際には、確固としたハードスキルも重要だが、急速に変化している職場環境で柔軟に対応する人としてのプロフェッショナルなソフトスキルも不可欠だ。企業のみならず国レベルでも、善意に基づく「社会への貢献」として、「ソフトスキルの向上」を奨励する必要がある。

より良い社会の創出に貢献する職業観は

さらにAI需要の結果を踏まえた上で、Linkedin Economic Graphsの編集者は以下の事実にも注意を促す。

「AIの台頭の中で直面している課題は、世界中の4分の3以上のAI専門家が、男性である」という事実だ。これは、世界経済フォーラムと共同で公開した「グローバル性別格差レポート」でも明らかになった。

この傾向は、たとえ善意を持っている男性専門家でも、「彼らの中にある無意識にある偏見が、これからのAIツールの構築、テスト、保守、実装の方法に影響を与えてしまう」だろうと警鐘を鳴らす。

「今日小学校に通う子どもたちの65%以上が、高校や大学を卒業した時、現在まだ存在しない仕事に就くことになる」等と2010年ごろから諸研究によって謳われているが、今レポートの結果、それもかなり現実味を帯びてきただろう。

ブロックチェーン、人工知能のほか、自動走行車、代替エネルギー、3Dプリンターなど、30年前には周知されていなかったまたは存在すらしなかった技術が、今日の仕事に急速に増加していることは明らかだ。

既に労働市場に出ている大人にとって新聞や記事で注目されるトピックは、「新しい仕事の創出」というよりは、「どの仕事がニーズが無くなり、減少している仕事に対してどう対応するか」が議論されているが、新たなニーズと雇用の創出が、減少している分野の雇用に取って代わるようになってきている。

それと共に、次の10年に築かれるAIをはじめとする新技術の基礎が、現世代の偏りを反映せず公平に作られていくこと、そして社会のあらゆる部分の可能性を拡大し確実にするために、協調的な努力をしていく必要が、労働経済に関しても長期目標として掲げられるだろう。

文:米山玲子
編集:岡徳之(Livit