「木の家」というと、山のコテージや昔ながらの民家といった、“田舎”“前近代的”というようなイメージがあるかもしれない。

しかしカナダでは今、大都市に木造の高層タワーが続々と出現し始めている。安全性が高く、都会的なデザイン。しかも、安く、速く、温室効果ガスの排出が低い、サステナビリティを考慮したつくりであるという。

バンクーバーに出現した、18階建ての木造高層タワー


ブロックコモンズ Photo: Wood Solutions

2017年、バンクーバー市内に18階の木造高層タワーが完成した。ブリティッシュ・コロンビア大学の学生寮「ブロックコモンズ」だ。

高さ58.5m、延べ面積1万5115㎡で、約400人の学生を収容できる。ブロックコモンズは、柱や床に木材を用いた混構造。他の建材も使用しているものの、木を多用した高層ビルとしては、世界一の水準を誇る。

ブロックコモンズの建設は、カナダ天然資源省による「トール・ウッド・ビルディング・デモンストレーション・イニシアチブ(TWBDI)」によって実現された。

TWBDIは2013年から2017年にかけて行なわれた建築プロジェクトで、国が500万ドルを投資。「マスティンバー」と呼ばれる、新しく開発された木質材料を使って高層ビルを建設するという条件で行なわれた。

強く、作業効率が良く、安全性も高い。次世代の木質素材「マスティンバー」


ブロックコモンズを組み立てている現場  Photo: archdaily

さて、プロジェクトで使われた「マスティンバー(mass timber)」とはどのような建材か。マスティンバーは、複数の木材を圧着し、驚異的な強度を実現させた集成材だ。

そのひとつに、CLT(直交集成板)がある。実際は以前から欧州で取り入れられていたが、米国地域では建築規制により使用ができなかった。近年、さらなる研究が重ねられて、コンクリート並みの強度を誇るようになったという。

CLTは木の繊維が直交となるように接着させた厚型パネルで、軽量のため、優れた耐震性を持つことでも知られている。CLTは工場で作られ、大きいものでは長さ46m、厚さ51cmになるものもある。

それらを建設現場に運び、レゴのように組み合わせて建物を造っていく。そのため作業スピードが速く、ブロックコモンズはたったの2ヶ月半で組み立てが終わったという。

木造建築は火災リスクが高い。当然、ブロックコモンズも法令で規定された耐火性能を満たす必要があるが、その課題もクリアしている。CLTは分厚く硬いため、外側からゆっくりと強度を保ったまま、安定した速度で炭化していく。

また、断熱性が高いため、その分避難する時間が確保できる。実験でCLTを使用した建物を燃やしたところ、火災中の室温は最高1000度を超えたが、隣の部屋は18度と温度が変化しなかったという結果もあるそうだ。

地球環境にやさしいサステナビリティ素材


Photo: archdaily

木材はコンクリートや鉄鋼などと比べ、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を抑えられるという長所がある。

前者は、製造する際に莫大なエネルギーを使う「エネルギー集約型」の建材であり、ものすごい量の温室効果ガスを発生させる。それに対し、木材は再生可能な自然資源であり、ライフサイクル全体で見ると、当然温室効果ガスや有毒物質の排出も少ない。

ブロックコモンズでは、2233㎥の木材を使用しているが、それによって削減できる二酸化炭素の排出量は2432トンに及ぶという。それは1年間に約500台の車の排出量に相当する。世界単位で持続可能な社会の構築を目指す現代において、木材は最適な建材であると言っても過言ではない。

カナダ連邦政府は、木造建築の促進を、気候変動問題の緩和対策とも位置づけている。持続可能な開発目標(SDGs)では、「2030アジェンダ」において「気候変動への対処」をターゲットのひとつに掲げている。カナダはその目標を達成し、低炭素社会実現のモデルになることを目指している。

ゲームチェンジャーの可能性


建築家マイケル・グリーン氏 Photo: Vancouver Sun

マスティンバーの研究は今も続けられており、日進月歩で開発が進められている。木造建築の第一人者であり、TEDにも登場経験のあるカナダの建築家マイケル・グリーン氏は、マスティンバーが「ゲームチェンジャーになる可能性がある」と述べている。

今回のプロジェクトでは、試験的ながら「汎用性」が重視された。場所や建物のタイプを問わず、簡単にどこでも展開できる構造の木造タワーをつくることである。

実際、パーツを組み合わせる“レゴのような”マスティンバーは、設計さえすれば、現場での作業は簡単で手間も少ない。そして、人口が集中する大都市では、サステナブルで環境にも人にもやさしい高層ビルが今後ますます求められるはずだ。

木材の良さを持ちながら、高い機能性・安全性を備えたマスティンバーは、新しい都市型建築の中心的存在になる可能性がある。

木造高層ビルは森林大国カナダの自然な選択

ブリティッシュ・コロンビア州の海岸沿いに広がる森 Photo: Nature United

さて、カナダに木造高層建築が次々と出現する理由には、地理的、歴史的な背景も大きく関わっている。カナダの森林面積は3億5千万ヘクタール。

これは世界第3位の広さであり、世界の約1割を占めるという。特に西海岸のブリティッシュ・コロンビア州はその大半を占め、州単体でも世界第8位の面積を誇る。

林業はカナダの主要産業であり、2010年に開催されたバンクーバーオリンピックでは、いくつかの施設が木造で建設され、森林大国カナダを世界にアピールした。

19世紀半ばに建国されたカナダは、当時から木造建築が盛んだった。豊かな森林環境に加え、鉄が手に入りにくかったこともあり、7~9階の中層木造建築は当時からよく建てられていた。

バンクーバーやトロントでは今も当時の木造建築物が残り、それらをオフィスや店として改装して利用する動きも盛んである。

カナダにとって、木造高層ビルは自然な選択であり、むしろ「サステナビリティ」や「地球環境保全」といった時代の流れが、ようやく追いついたと言ってもよいのかもしれない。

それでは、カナダで現在進んでいる、木造高層建築プロジェクトについて紹介する。

40階の超高層ビル「カナダ・アース・タワー」


Photo: archdaily

バンクーバーの中心地に、40階建ての超高層木造タワー「カナダ・アース・タワー」の建設が計画されている。これが実現したら、世界で最も高い木造タワーとなる。カナダ・アース・タワーは、約200戸の住居と3階ごとに設置される屋外ガーデン、そしてオフィススペースや店舗用のテナントという構成だ。

設計を請け負う建築事務所Perkins + Willは「このタワーをグリーンビルディング建設のベンチマークにしたい」と意気込んでいる。

世界初の木造建築都市「ウォーターフロントプロジェクト」


T3 Bayside  Photo: 3xn

トロントにあるオンタリオ湖のほとりに、世界初となるの大規模な木造建築都市が計画されている。2000エーカー(約8km2)の巨大な敷地に、12棟の最新鋭の木造ビル群の建設が予定されている。

うちひとつは、10階建て、高さ42mのオフィスビル「T3 Bayside」であり、完成すれば北米で最高層の木造オフィスビルとなる。

区画内には1階部分が店舗スペースの住居用ビルや、共有の広場、イベントスペース、コワーキング施設などがつくられる予定で、快適でこれまでにない都市空間となるだろう。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit