日本でも映画『スタートアップ・ガールズ』が公開されるなど、女性起業家への注目が高まりつつあるが、欧米ではさらに女性起業家のための先進的な取り組みが進んでいる。

女性起業家の割合が世界第1位と言われているアメリカ・シカゴを例に、女性起業家の活動を活性化させるスタートアップ業界の取り組みを見てみよう。

女性起業家比率の高い都市トップ3はシカゴ、ニューヨーク、クアラルンプール

スタートアップへのサポートを手がけるStartup Genome社が発表した「女性起業家が多いエコシステム・ランキング」2019年版で、女性起業家比率が高い世界の都市トップ10が明らかになった。

1位はシカゴの26%、2位ニューヨーク、3位クアラルンプール、4位上海がほぼ同率で続き、5位ヒューストン、6位デンバー、7位シドニー、8位マイアミ、9位ロサンゼルス、10位釜山となっている。

トップ10のうちアメリカの都市が6つを占め、アジアからも3都市がランクインしている。

スタートアップにおける女性起業家の割合は、世界平均が14.1%とまだ低いのが現状だ。その中で唯一女性起業家の比率が25%を超えるシカゴに、世界の注目が集まり始めている。

シカゴはニューヨークに次ぐアメリカ第2の経済都市で、マクドナルドやボーイングといった世界的大企業もシカゴに本社を構えている。

アメリカでテック系ベンチャーやスタートアップといえば、シリコンバレーの西海岸、もしくはニューヨークを擁する東海岸というイメージが強い中で、内陸部にあるシカゴは孤軍奮闘。2018年にはシカゴに拠点を置くスタートアップで総額14億ドルの資金調達が行われ、世界のスタートアップ・エコシステムのランキングでも17位につけている。

並み居るスタートアップ大都市を抑えて、なぜシカゴが女性起業家比率で世界1位になっているのか。その理由は、シカゴで女性起業家をサポートするエコシステムが、同時多発的に形成されているところにある。

シカゴの女性起業家たちを取り巻く手厚いコミュニティ


シカゴでは女性起業家のためのピッチイベントも活発に行われている

女性起業家のためのエコシステムとして、シカゴでまず名前が挙がるのがMs.Techだ。これはテック業界の女性たちが集まる会員制組織で、年会費499ドルもしくは月額49ドルの負担で参加が可能。

女性起業家たちが情報共有やメンタリングを通して助け合い成長できるよう、メンバー同士のマッチングプログラムやピッチトレーニング、講演会イベントなど様々なアクティビティが開催されている。2010年に8人のFecebookグループから始まったMs.Techは、今や会員数5,000人を超える巨大組織だ。

Ms.Techは「シカゴを全米一、女性がビジネスを始めやすい場所にする」という目的を掲げるNPO 1871と組み、WiSTEMという12週間の女性向けスタートアップ支援プログラムもデザインしている。WiSTEMでは、先輩女性起業家から毎週1:1のメンタリングを受けられる他、シカゴのビジネスリーダーやベンチャーキャピタルへのアクセス、オフィススペースの利用などが可能となる。

もうひとつwtf(Women tech founders)も女性起業家をサポートする組織で、既にシカゴで成功を収めている多くの女性経営者たちがアドバイザーとして名を連ねる。wtfが主催するWIT AwardsやTech Conferenceといった女性起業家向けの大規模イベントは、シカゴだけでなく全米から注目を集めている。

この他にもシカゴには様々なコンセプトの女性起業家向けコミュニティが存在し、同時多発的に活発な情報共有や協業が巻き起こっているのだ。

女性起業家の資金調達へのアクセスをサポート

人的資源のサポートに加え、女性起業家が活躍する上でもうひとつ欠かせないのが、資金面でのサポートだ。現在ベンチャーキャピタルの投資総額のうち、女性が率いるスタートアップへの投資額は、全体の3%にも満たないと言われている。

まだ男性優位と言われるテック業界では、資金調達の審査において女性起業家にバイアスが掛かっているとシカゴの女性たちは危機感を高め、その解決に向けてアクションを起こしている。

二人の女性Gerri KahnweilerとCayla Weisbergによってシカゴで誕生したInvest Her Venturesは、アーリーステージのスタートアップへの投資に特化したファームだ。現在の投資ポートフォリオに並ぶ15社は、全て女性起業家の率いるスタートアップとなっている。

同様にDyMynd Angelsも、資金調達における男女格差を埋めることを掲げてエンジェル投資を行っている。DyMyndのCEOであるCarolyn Leonardは女性投資家のパイオニアとして有名な人物で、女性起業家への投資を行うだけでなく、女性投資家を増やす活動も積極的に行っている。

さらに前述のwtfは、投資家へのピッチで女性が力を発揮できるよう、女性起業家のピッチ力を高めるトレーニングやイベントを開催している。このようにシカゴでは女性起業家の資金面でのハンディキャップを埋めるためにも、様々な取り組みが行われているのだ。

女性起業家活性化の取り組みが連鎖するシカゴ


女性起業家によるビジネスへの消費者のアクセスをサポートするbossychicago

これ以外にもシカゴには女性起業家の活動をサポートする様々な組織やサービスが存在する。

たとえば女性起業家向けオンラインマガジンや、女性中心のスタートアップにウェブサイトの作り方を教えるプログラム、消費者が女性起業家の手掛けるサービスにアクセスしやすくするデータベースなどだ。さらには次の世代である女子高校生に向けたワークショップやイベントなども開催されている。

シカゴでの女性起業家活性化への取り組みを見て印象に残るのは、それぞれの当事者意識や主体性の高さだ。エコシステムの恩恵を一方的に受けるのではなく、次はメンタリングを提供する側に回ったり、欠けているサービスやコミュニティがあれば、自分がそれを立ち上げよう、という考え方をする女性起業家がシカゴには多いように感じる。

シカゴが女性起業家の活躍する都市になったのは、行政や特定の団体の取り組みによるものではない。テック系ベンチャーやスタートアップのリソースが豊富な西海岸や東海岸から隔絶された立地だからこそ、自分たちで主体的にエコシステムを作っていこうとするシカゴの女性起業家たちと、それをサポートするコミュニティの同時多発的な動きによって、女性起業家比率世界1位のシカゴが作られたと言えるのではないだろうか。

文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit