コロナ禍にも関わらず、オンライン・マーケット市場は好調だ。アマゾンやザランドのようなBtoCだけではなく、売る人、買う人が自由に参加できるオンライン・マーケットプレイスも好調。

例えばフリーマーケットでは世界最大規模のeBayは今年の6月末、第二四半期で過去15年最大の26.3%増という伸び率を達成(四半期ベースの前年比)。おなじみのメルカリも、2020年6月期の連結決算で売上高は前年比48%増。普段ならスーパーで買う食料品も好調で、ロックダウンを余儀なくされたヨーロッパではパンデミック前に比べて利用者が10%増えたそうだ。

この成長率はコロナ禍にも“関わらず”ではなく、思うように動けないコロナ禍“だからこそ”というべきだろう。今は非常時での消費行動と捉えられるふしがあるが、パンデミック後もニューノーマルとして根づく可能性は十分にある。

オンラインショッピングの取り扱い商品を見ると、そのバラエティに改めて驚かされる。私の住むオランダで利用しない人はいないといわれる最大のオンラインフリーマーケット「Marktplaats」では、チケット、休暇、馬、車、家(!)さえも売買の対象で、もはやオンライン上で売れないものはないと言えるかもしれない。

イノベーションを売り買いするマーケット

そのようにありとあらゆるものがインターネットで売り買いされているが、だいたいがタンジブル(Tangible)だ。タンジブルとは触れて感知できるもの、実体があるものを差す。

売買するのだからタンジブルなのは当たり前と思われるかもしれないが、そんなことはない。本記事で紹介するのはタンジブルの反意語のインタンジブル(Intangible)を扱うプラットフォーマーだ。売り買いされている無形、実体のないものとは何なのか――。「イノベーション」である。

イノベーションのオープン・マーケットプレイスとして世界最大の規模を誇るのが、アメリカ発の「InnoCentive」である。

2001年、アメリカの製薬会社イーライリリーが社内ベンチャー事業としてクラウドサイトを立ち上げ、4年後の2005年に同社から独立、今や200近くの国、50万人のエクスパートとのネットワークをもち、アストラゼネカやベーリンガーインゲルハイムなどの製薬会社、フォード、NASA、Prize4LifeやWorld Visionなどの非営利団体の課題解決に貢献している。

InnoCentive」より

Seekerが依頼し、Solverが応える

仕組みはこうだ。課題を解決したい企業や団体がInnoCentiveにコンタクトをとる。委託元となった企業や団体はSeekerと呼ばれ、競合他社に知られないように匿名にすることも可能。

SeekerはInnoCentiveのツールやサービスを活用してニーズやアイデアを特定し、Challengeというダッシュボードに締め切りを設けて課題を投稿。挑戦したい人はInnocentiveにSolverとして登録(無料)、期限内に解決策を提示する。委託元が精査し、採択されるとSolverに報奨金が支払われる。

分野はビジネス、化学、コンピュータ&IT、エンジニアリング、環境、農業、生命科学、物理化学、ソーシャルイノベーションなど。学歴は問わないとしているが、分野から見てとれるように半数以上が博士号を取得している高学歴者だ。

Solverの士気を高めるインセンティブ

企業でもクローズイノベーションからオープンイノベーションへと移行する動きが活発になっており、社内起業や研究所を立ち上げて社外にパートナーを求めるケースも多く見られるが、資金、設備など負担は大きい。

その点、InnoCentiveはSeekerの登録料、報奨金などで数百万円が必要だが、研究者を雇う人件費を考えればコスト面で効率がよい。Solverとして登録している研究者らは報奨金というインセンティブに加え、課題解決に貢献したいという研究心・探求心が大いに刺激される。課題解決率は80%を誇るそうだ。

Challenge Centerで応募中、審査中のプロジェクトが閲覧できる。

Challengeは「Ideation(アイデア)」「Theoretical(理論)」「Reduction to Practice(具体化)」などに分かれており、環境、グローバルヘルス、クリーンテック、発展途上国などのほかNASA、ワールドビジョンなどの団体名からも検索できる。現在応募しているChallengeの一例を見てみよう。

【アイデア】
貨物で搭乗客のソーシャルディスタンスをとる飛行機のキャビンのレイアウト設計(報奨金:500ドル)

【理論】
次世代の肥料イノベーション(報奨金:6万5,000ドル)

【具体化】
SUDEP(てんかんにおける予期せぬ突然死)予測バイオマーカーの開発(報奨金:100万ドル)

アイデアマネジメントとタッグを組む

InnoCentiveは2020年2月、イギリスの企業と新しいパートナーシップを発表した。ロンドンを拠点にするアイデアマネジメントのソフトウエア&サービスを展開するWazokuというスケールアップ(スタートアップから急成長段階にある企業のこと)である。

Wazokuは2011年に設立、アイデアの着想から展開、実現までを可視化したIdea Spotlightを開発。プロセス管理、スケジューリング、タスク共有、アイデアの評価、分析、実行、コスト管理などユーザーフレンドリーなプラットフォームである。

これを製薬、保険、金融サービス、エンジニアリング、公共、行政、防衛などの業界別、人事、R&D、サプライチェーン、ファイナンス、カスタマーサポートなどに細分化して提供、イギリスの国防省やNHS(国民保健サービス)、HSBCやバークレーの銀行など幅広い業種に活用されている。

今回のパートナーシップでInnoCentiveは、イノベーションの素となるアイデアの管理プラットフォームを顧客に提供することができ、WazokuはInnoCentiveの財産である50万人ものSolverにアクセスすることができるほか、アメリカ進出への足掛かりも得ることになる。

経営コンサルタント「Tech Nation」に、“2019年イギリスをリードするスケールアップ30社”に選ばれた。(「Wazoku」より)

イノベーションをAIで加速させる

イノベーションが必要なのは、そこに課題やニーズがあるからで、解決するには話し合ったり、違う価値観から見直したり、知恵を出し合ったりする。話し合いの場がオープンであればあるほど、人が多ければ多いほど様々な方面から検討することができ、革新的なイノベーションが起こりやすいといえる。

WazokuのCEO、Simon Hill氏は、このパートナーシップによって生まれるサービスを提供できる企業は世界のどこをみてもいないと豪語する。

両社は、Wazokuのアイデア管理プラットフォームにAI機能を付加した「Spotlight.ai」を開発中。課題をより的確に把握し、有効なリソースを特定し、より速く解決に導くサービスを目指す。イノベーションを促す当事者自らが社会が変わるほどのイノベーションを今、起こしているのかもしれない。

文:水迫尚子
企画・編集:岡徳之(Livit