クリスマスのトイショップを席巻する「サプライズ/コレクタブル」トイ

野球のボールより一回り大きい、パステルカラーのかわいらしいカプセル。幾重にも仕掛けられた包装をむいたり割ったり取り出したりする毎にファッション小物やシールなどサプライズが出て来て、最後に人形「本人」と対面。さらにその人形には、日光や温度で色が変わるなどのギミックが仕込まれている――。

開封の過程自体が「商品」(L.O.L.公式サイトより)

これがアメリカで2016年にリリースされ大ヒットしたサプライズトイ「L.O.L.サプライズ!」の開封プロセス。1体10~20ドルと比較的安価に販売されながら、発売から5カ月で250万ドル(約2億6,000万円)を計上。翌年の2017年には製造が追いつかず「キャベツ人形現象(※)」とメディアが騒ぐ事態となり、2018年には年間に最も売れたおもちゃトップ10のうち7つを同シリーズが占めた(※キャベツ人形とは、1980年代に爆発的人気と品薄により米国各地で暴動を引き起こしたぬいぐるみタイプの人形のこと)。

同商品の大ブレイクは、欧米においては単独のヒットに留まらなかった。この4~5年の間に「ヘアドラブルズ」「ブルーミーポット」など、次々と「サプライズ/コレクタブルトイ(開封するまで中身が分からず、購入者が複数収集することを前提として販売される玩具)」が発売され続けており、現在筆者が住むヨーロッパの田舎町のクリスマス商戦も席巻しているのだ。

関連商品も含め大人気(筆者撮影)

全米玩具協会が主催する「Toy of the Year Award(全米おもちゃ大賞)」を見てみると、3年間連続で総合大賞を受賞した「L.O.L.サプライズ!」の他にも、2020年度は18部門のうち4部門での大賞を各社のサプライズ/コレクタブルトイが占めている。

現在投票中の2021年度版では、独立した「コレクタブル部門」の他に「人形部門」の候補の半分をコレクタブルが占めるなど、勢力は拡大するばかり。

バンダイアメリカのコレクタブル「キャラクションキューブ」もノミネート中(TOTY公式サイト

この現象はアメリカで玩具業界の革命とも評されており、1959年の発売以来、女子向けの人形の代名詞とされてきた「バービー」さえも、サプライズ要素を加味した「バービー カラーリビール」をラインナップに加えるなど、追従を強いられている。

貪欲に玩具業界の「絶対王者」の地位を固める発売元企業

もっともその追従も無理からぬことで、発売から現在までの約60年かけてバービーが達成したといわれている10億体のセールスを、L.O.L.サプライズ!は約3年で追い抜いている。

カリフォルニアを拠点とする販売元のMGA Entertainment(以下MGAE)は、2019年に全世界での年間売上高50億ドル(約5,200億円)を記録。

ドール業界の絶対王者として君臨してきたマテル社の45億ドルを上回り、現在公式に「世界最大の非上場玩具企業」だ。

イラン出身で17歳で単身渡米したCEOのIsaac Larian氏は、アグレッシブな経営スタイルで敵も味方も多いとの評判が高い。

今ほど日本文化が欧米に認知されていなかった1980〜90年代に、当時兄弟で経営していた電子機器輸出入会社でニンテンドーやパワーレンジャー(90年代に米国を中心に大ブレイクした、いわゆるスーパー戦隊シリーズ)のライセンスを獲得。それを機に玩具に商機を見出したというエピソードから、鑑識眼の高さは想像するに余りある。

今年3度目のおもちゃ大賞を受賞した際には、米国の玩具業界の現状に「正直に言って、ごくひとつまみの中小企業しか新しいイノベーションを発明するリスクを冒していない」と苦言を呈し、手堅い人気商品のライセンスだけで安全に生き残ろうとする傾向の強い大手企業たちを批判。

「私たちが開発する玩具の9割は、実際に発売されることなく消えていく。そして店頭に並ぶところまでこぎつけた残りの1割の中にも、子どもたちの手に取ってもらえないものもある」「玩具ビジネスはギャンブルだ」と、イノベーションに注力しリスクを恐れない自社の方針が成功の鍵と語った。

他にもデザイナーの盗用問題で自社に対し訴訟を起こしたマテル社を販売妨害で訴え返したり、トイザらス本社が倒産した際には買収のために大規模なクラウドファンディングを募ったり、派手な言動が経済紙の常連ともなっている。

社会貢献にも余念がないMGAE

一方時代の流れを汲んで、同社ならではの方法で社会貢献に取り組む姿勢も。

2012年にはがんに対する啓蒙と関連団体への寄付のために髪のないスタイリッシュな限定版ブラッツ人形を発売しているほか、コロナパンデミックが始まって間もない今年4月には前線でケアにあたる人たちに防護具を届ける活動を行うNPOを設立。「Front Line Heroes」という医療従事者をモデルにしたL.O.L.ドールをリリースして子どもたちに彼らの尽力をアピールすると同時に、売り上げの一部を同団体の活動に充当している。

マスクの仕方も教えてくれる「Front Line Heroes」(MGAE公式Youtubeチャンネルより)

また、大量のプラスチック製品を製造する企業としての責任に言及し、2021年からL.O.L.サプライズ!シリーズのパッケージを100%生分解性プラスチックに切り替えること、さらに2025年から生分解性のある素材だけで製造された製品しか扱わないことも宣言している。

サプライズトイの人気の秘密は「動画プラットフォームとの相性の良さ」と「安心な未知」

さて、サプライズ/コレクタブルトイの爆発的人気には様々な背景がある。

そもそも火付け役となったL.O.L.シリーズのコンセプトは、先述のLarian氏がYouTubeで子どもがおもちゃを開封する人気動画を見て、「開封の過程自体を商品化する」というアイディアを思いついた時に生まれたものだった。

「世界一再生された子ども」であるYoutuberのライアン・カジくんがカプセルからおもちゃを取り出す動画は現時点で20億回以上再生され、「開封動画」は一つのジャンルとして動画プラットフォームに確立している。

この理由に関しては発達心理学者Rachel Barr氏の説明が多くの場で引用されている。いわく、

「子どもが開封動画を好む理由は、彼らがサプライズトイを好む理由と同じです。子どもは4~5歳になると『未来』の概念を持ち、これからの出来事を期待して待つことを楽しむようになる。ただし恐怖心も強いので、中身がある程度分かっていて、絶対にネガティブなものが出てこないという安心感の枠の中で未知へのわくわく感をくすぐられる開封動画や、開封のプロセスを長く楽しめるサプライズトイが好きなのです」。

開封動画はまた、「番組に見えるCM」にもなりやすい。日本でも子どもに人気の低年齢のYouTuberが、メーカーの提供のもとにサプライズトイを開封する動画には、数百万の再生数を誇るものも多い。

レビューする「HIMAWARIちゃんねる」(公式Youtubeチャンネルより)

Larian氏も「テレビCMでおもちゃをアピールする時代は終わった」とコメントする通り、子どもたちのインフルエンサーはオンラインに移行している。特に、まだ自分が持っていないおもちゃの開封を、見慣れたインフルエンサーの子どもを通して体験し、一緒に楽しむ気分を味わう行為は、ある意味バーチャルで友達と遊んでいるともいえ、自由に家を出て友達と遊べない事情がある場合に最適と見る向きもある。今年がそのいい例だろう。

ある程度の年齢になれば自分が入手したものをSNSで発信したり、手持ちのアイテムを友達とトレードするような楽しみ方もできるようになる。

アメリカでも前々世紀から存在した「ベースボールカード」を例に取るまでもなく、「サプライズ」も「コレクタブル」も、言ってしまえば中身の人形も、特に新しいものではない。ただそれがソーシャルメディアと出会ったことにより爆発した。というのが、大方の見方のようだ。

「入手へのアディクション」を否定的に見る専門家も

一方、ハーヴァード大学医学部で教鞭を執るかたわら子どもを過度の商業主義から守るためのNPOを設立した心理学者のSusan Linn氏は、「これらのおもちゃの悪い点は、子どもたちにおもちゃは『遊ぶ』ためにあるものではなくて『入手する』ためにあるものだと思わせてしまったことです」と語る。

サプライズトイは「購入し、開封して手に入れる」ところがアドレナリン放出の最高潮であり、中身を手にした子どもは少し遊べば「しらふ」の状態に戻る。そしてまたそのアドレナリンを求めて次のものを欲しがる、いわば「依存症」のような状態に陥っている…というのが彼女の視点だ。

しかし商品の目的をそれを「使うこと」から「次から次へと買うこと」にシフトしたことは、ビジネスとしては革命だろう。単純に言えば購入のゲーミフィケーションだ。

特に経済的にも社会状況的にも息づまる空気がずっと続いていた今年、手の届きやすいちょっとしたお楽しみとして「これくらいの値段なら、とりあえず一つくらいいいか」と何かのサプライズトイを自分や子どものために手に取った人もいるのではないだろうか。

敷居の低い価格設定でゲームに誘い、あえて全ラインナップを明らかにしつつ、多くの購入者の憧れのレアはなかなか出さない仕組みも巧妙。

次から次へと欲しくなる収集欲がだいたい落ち着いた頃に、シリーズを刷新して次の「シーズン」を始めることで、馴染みの顧客がまた新たな購入者となる。これは現在全世界で3億5,000万人以上がプレイするモンスターオンラインゲーム「Fortnite」でもおなじみの手法だ。

freepicより

日本では別ラインの「サプライズ+愛着系おもちゃ」が優勢か

さて視点を変えて、日本におけるサプライズ/コレクタブルトイの動向を見てみる。

大前提として、日本には世界に類を見ない「元祖サプライズ/コレクタブル」である「カプセルトイ」の文化がある。その進化と繁栄は誰もが知る通りだ。

全国展開の「ガチャガチャの森」などの専門店のほか、今まで最もカプセルトイの購入者に少なかった大人の女性を取り込むことを意識したバンダイナムコの「ガシャポンのデパート」。帰国の途に就く外国人観光客に向け「あまった小銭をオモチャに!」をキャッチフレーズに「空港ガチャ」を全国の空港に増設しているタカラトミーなど、今年も各社特色を活かして続々と台数を増やした。

京急にも設置中(京浜急行公式サイトより)

残念ながら今年度の日本おもちゃ大賞はコロナパンデミックによりキャンセルされてしまったので、昨年度の受賞商品をチェックすると、やはり「ハイターゲット(大人向け)・トイ部門」でカプセルトイの「だんごむし」が受賞している。

また、件のL.O.L.シリーズはやはり受賞しているが、サプライズ系で入賞しているのは他にセガトイズのペットの出産を体験できる「夢ペット」シリーズと、セガトイズの「WHO are YOU?」の2点。

日本の店舗販売においては、欧米で爆発的にヒットしている「サプライズ+コレクタブル」よりも、カプセルトイがカバーしていない「サプライズ+愛着を育てる」ジャンルが強く支持されているもよう。実際セガトイズは、「WHO are YOU?」の日本発売にあたり、オリジナルにはなかった「助けてあげる」というストーリーを商品コンセプトに加えている。

こちらはL.O.L.サプライズと同年カナダから発売され、やはり日本を含む販売国の多くで深刻な入手困難や訴訟を引き起こした「うまれて!ウーモ」の流れといえるだろう。

「ウーモ」も続々新バージョンが登場中(タカラトミー公式サイトより)

しかし先述のマテル社がL.O.L.シリーズに追従する形で発売した「バービー カラーリビール」も今年7月に日本市場に上陸し、MGAEがL.O.L.の後継として仕掛けた「プープシー スライムサプライズ」もバンダイから発売中。

日本発の「イルメール ハッピードール」も入手困難でものによりAmazonで最高3万円程度の値がつくなど、やはりサプライズ+コレクタブルの健闘もうかがえる。人間のコレクション欲求は古今東西普遍的なものだ。

世界的に展開される「サプライズ/コレクタブルトイ」の世界。あなたも「とりあえずひとつ」、いかがだろうか。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit