義務教育過程の環境学習必修化、世界初はイタリア

SDGsやESGへの関心が高まり、企業活動においても環境問題への取り組みは本業と不可分の存在となりつつある。

たとえば2021年4月21日、多くの人々の関心を集めたアップル社の新商品ローンチイベントでは、各プロダクト紹介の最後に必ずどれほど環境負荷を低減させているのかがアピールされていた。

またビジネスSNS、Linkedinでも「Climate Change」「Sustanability」のキーワード検索でヒットする職種が増えている。多くの企業で、環境問題を専門とする人材需要が高まっているのだ。

労働市場で起こる変化に、教育も変化を迫られている。環境問題への関心と知見を持つ人材をどう育成するのか。

いち早く動いたのはイタリアだ。

ロイター通信2019年11月の報道によると、当時の教育相ロレンツォ・フォイオラモンティ氏は、翌年9月からイタリアの公立学校におけるカリキュラムに気候変動と持続可能な開発を組み込む計画を発表。公立学校で年間33時間を気候変動問題を学ぶ時間に割り当てることが定められた。1週間あたり1時間に相当する。対象となるのは6~19歳。

また地理、数学、物理の授業に環境問題や持続可能な開発の観点を組み込むことも盛り込まれた。

このカリキュラム作成にあたって、コロンビア大学やオックスフォード大学の専門家が招集され、各学年における学習目標やアプローチの方法などが考案された。

英国では大学で環境学習必修化、公立義務教育でも近々必修化予定

学校ごとの環境学習必修化も活発化しつつある。英ガーディアン紙2020年9月28日の記事によると、英シェフィールド大学では5年以内に学部に関係なく、サステナビリティ関連の単位取得を必修化する計画という。

同大学のサステナビリティマネジャー、ジェームズ・メリークロッフ氏は、この取り組みは生徒の意向を汲むものであり、また企業側の需要に応じるものであると述べている。

英国では、若い世代の間で環境問題を懸念する声が広がっている。ウィンチェスター大学が16〜18歳を対象に実施した調査によると、気候変動問題を懸念するとの回答割合は54%と同国医療制度(NHS)問題に次いで大きな値となった。一方で、気候変動問題で大学が十分な対応しているとの回答は46%と半数を下回る結果だった。

シェフィールド大学の取り組みのほかには、ウィンチェスター大学で世界初といわれる教育実習生向けの環境問題コースが設置される計画などが報道されている。英国では、イタリアと同様に義務教育過程における環境学習必修化が検討されているが、同時に教師側からトレーニング環境が整っていないとの懸念の声があがっている。ウィンチェスター大学の取り組みは、この課題へのソリューションの1つとなることが期待される。

ロイター通信が2021年3月16日に伝えたTeach The Futureの調査によると、英国では環境学習を義務化すべきと考える教師の割合は90%を超える。一方で、環境問題を教えるにあたり、自身がトレーニング不足だと感じる教師の割合も70%以上と高い割合であることが明らかになっている。

一方、英キール大学は地理学のカリキュラムを環境問題を考慮し抜本的に改革。同大学が初めて設置した「サステナブル教育部門」の責任者ゾー・ロビンソン氏がガーディアン紙に語ったところでは、同大学の地理学カリキュラムはこれまで石油・ガス産業に焦点を当てた内容だったが、持続可能なアプローチを取り入れ、SDGsに沿う形でカリキュラムを刷新したという。

サステナビリティの知識・スキル求める企業、急増

シェフィールド大学のサステナビリティ・マネジャー、ジェームズ・メリークロッフ氏が、企業側が環境問題やサステナビリティの知識・スキルを持つ人材を求めているという発言は、労働市場の変化を知る上で特筆すべき発言といえる。何より同氏の役職「サステナビリティ・マネジャー」や上記キール大学の「サステナビリティ教育部門責任者」という役職も労働市場の変化を読み取るヒントだ。

冒頭でも触れたが今労働市場では、環境問題・サステナビリティ取り組みの知識・スキルを持つ人材の需要が高まっている。

これはリンクトインの仕事検索からも見て取ることができる。たとえば「Climate Change」というキーワードで、グローバル企業が集積するシンガポールという立地で検索してみると、313件の求人がヒットするのだ(2021年4月22日時点)。さらに「Sustainability」というキーワードに至っては、1000件の以上のヒットとなる。

どのような役職が掲載されているのか。

たとえば、大手コンサルティング企業アーンスト・アンド・ヤングは気候変動・サステナビリティサービスに関わる求人を掲載。一方、ゲーミングデバイスメーカーRazerではサステナビリティ・マネジャーを募集。このほか、サステナビリティソリューションのコンサルタント、サステナビリティ金融サービス人材、気候変動ポリシー専門家などの求人が掲載されている。

Razerのサステナビリティ・マネジャーを例に、どのようなスキルが求められているのか概観してみたい。

この役職の主な責務は、ESGにかかる戦略策定や顧客へのESG取り組みの周知、同社サステナビリティ取り組みの監査など。マーケティングやPR・コミュニケーションスキルに加え、環境問題やサステナビリティ取り組みの実行・査定に関する知識・スキルが求められることが見て取れる。

最近では、サステナビリティ取り組みをまとめ上げる役職「最高サステナビリティ責任者(CSO)」を新設する企業も増えてきている。環境問題の深刻化で、労働市場と教育はどのように変化していくのか、その動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit

参考
https://www.weforum.org/agenda/2021/03/nature-studies-school-education-uk-environment-climate-change-green/
https://www.reuters.com/article/us-britain-education-climate-change-idUSKBN2B8009
https://www.reuters.com/article/us-climate-change-italy-exclusive-idUSKBN1XF1E1
http://www.ibe.unesco.org/en/news/italy-first-country-require-climate-change-education-all-schools
https://sg.linkedin.com/jobs/search?keywords=Climate%20Change&location=&geoId=&trk=public_jobs_jobs-search-bar_search-submit&position=1&pageNum=0
https://www.theguardian.com/education/2020/sep/28/we-deserve-to-be-taught-about-it-why-students-want-climate-crisis-classes