「教育移住」ってどうやるの? 可能性のある国や手続き、当事者に訊く体験

ウルセム幸子 ウルセム幸子 2020.10.20

ウルセム幸子

フリーランスライター、日本語講師。
臨床心理士として学校・教育相談で7年間勤務したのち、出産を機に2013年にオランダに移住。現在大学・語学学校などで日本語教育に携わるかたわら、オランダの文化・子育て・教育などに関してネット上で発信中。

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低くなる「子育てのための移住」の垣根

筆者は現在「子ども幸福度世界一」(UNICEF・2020)のオランダに暮らしているが、ここ数年で「子育てをオランダでするために縁もゆかりもないオランダに移住してきた」=いわゆる教育移住組の日本人のお仲間をお見掛けする機会が急増している印象がある。

一方、先日「子育てしやすい国ランキング」に関する記事でその旨に言及したところ、それを見てくださった多くの方から「外国に縁もゆかりもない日本人の家族が、海外転勤でもなく教育のために海外に移住できるなんて知らなかった」という声を頂いた。

確かに日本で生活し、教育を受けているかぎり、国外に移住・進学するという選択肢を考える機会はとても少ない。PISAなどの国際的な学力テストでも日本は色々ありつつ、依然比較的上位に位置しているし、娯楽やサービス、商品の豊かさは世界に類を見ないほどだし、世界的に見ても日本の子どもが物理的に恵まれていること、特に海外に出る必要を感じないことは理解できる。

しかし一方で私たち日本人には一般的に、精神的幸福度や国際感覚、英語力、IT化が進むこれからの世界で必要となる創造性やEQといった特定の苦手分野があることも否めない。

日本は子どもの精神的幸福度が低めとの評価も(画像:写真AC

幸福でこれからの国際社会をのびのびと渡っていける未来人を育てる第一歩として、海外で育てる・学ぶという可能性、またパンデミックにより「どこでも出来る仕事」が増えた今、お子さんが海外で学びたいと言ったときにいっそ家族で新しい土地を体験してみることを、選択肢の一つとして頭の片隅に置いてみてもいい時代なのかもしれない。

そこで今回は純粋な日本人家庭が「教育留学」をする場合、具体的にはどんな国に可能性があり、どんな手続きをするのか(具体的には滞在許可取得の条件など)、また実際にしてみてどうだったか、当事者の体験などをまとめたい。

安全で充実した「教育移住」のできる国は意外と少ない

さて、ざっくりと教育移住と言っても、どの国に行けるのだろう。世界には公式に認知されているだけでも200近い国があり、その国のありようも日本人が移住する場合の条件もさまざまだ。

今回はあくまで「億万長者でない普通の家庭の」「親(できれば両親とも)と子が一緒に」「観光ビザでは滞在できない数年以上」海外に住み、そこで「英語で」教育を受けるケースを想定する。

また滞在許可の条件はその国によって本当に細々と様々で、刻々と変わるので、あくまで現時点での情報を概観できるようにざっくりまとめる。

国としての条件のみ考えた場合、教育移住先を考える場合の重要な条件は

  1. 教育の充実度、英語での教育の受けやすさ(『教育移住』である以上これが最も重要だろう)
  2. 滞在許可=ビザの取りやすさ(どんなに教育の充実した国でも、ビザが取れなければ住めない)
  3. 治安や気候、物価、文化の違い、多様性への寛容度、英語の通じやすさなど、日本人にとっての暮らしやすさ

あたりが柱になるだろう。

日本からの近さやコスパで人気の東南アジア(シンガポール・マレーシア・フィリピン)

短期・長期を問わず留学や教育移住に人気のシンガポールやマレーシアは、これらの条件がほぼそろっている。

日本から遠すぎず、同じアジアなので食べ物や文化や気候の違いもそう大きくない。それでいて多民族で成り立つ文化の多様性があり、英語で教育を受けられるインターナショナルスクールも充実している。

中国語も学習が可能だし、ビザも親1人分までなら保護者ビザが容易に取得できる(ただしその前提となる子どもの学生ビザは発行してくれる学校とそうでない学校がある)うえ、家族全員で移住したい場合も、比較的現実的な一定額の預金や投資などで長期ビザを発行してもらえる制度があったりもする。

日本国内でひとり年間数百万円の学費を払ってインターナショナルスクールに通わせるより、生活も英語漬け(公用語のひとつ)になるシンガポールやマレーシアに移住して現地のインターに、と考えて教育移住先に選ぶ人も多い。

特にシンガポールは「国民こそ国の最大の資源」という政治理念のもとに国家予算の20%を教育分野に割り振っており、国際学力テストや世界大学ランキングでも常に上位入りの教育大国。

ただし、その成果か近年成長著しい同国は学費も生活費もうなぎのぼりで、総合子育て費用は日本と同等か若干高いくらいとのこと。「日本と同等くらいの」出費で世界水準の教育と多文化国家の中で育つ体験は、安いか、高いか――。

絶賛成長中のアジアの国にある活気や勢いに惹かれる人も(画像:unsplash)

それに比べてマレーシアはまだ物価も学費も(学校によりピンキリだが)低く、同様の多文化社会の中で生活できるので最近注目を浴びている。ただ両国とも、英語が訛っているという不名誉な評判も根強い。

同様にインターナショナルスクールへの留学制度が整っていて費用も手ごろなため、留学先として安定した人気を得ているのがフィリピン(セブ島)。延長を繰り返せば最長3年まで滞在が可能な観光ビザ、35歳から申請できるリタイヤメントビザなど長期滞在のビザも取得しやすく、すばらしい気候と環境に暮らしながらの子育ては正直筆者もしたいが、治安面に若干の不安があるとのうわさも。

「王道」アメリカ圏は長期ビザ取得のハードルと生活費の高さがネック

アメリカ英語を学んで育つ私たち日本人にとって、英語教育の「王道」の国はアメリカ本土やハワイなどの米国圏だろう。

ただアメリカは外国人の入国・労働に非常に敏感なので、短期留学は別として、教育を目的として移住して長期滞在ビザ取得、という流れはかなり難関だ。親が1人だけ付随する「親子留学」ならば、親も子もともに学生ビザを取得するという手段もあるが、その場合日本での資産や収入の証明が必要になる。

治安やヘルスケアの問題や生活費や学費の高さ、様々な面を総合した「子育てのしやすさ」の評価の低さなどもあり、パワフルな国のわりにいわゆる教育移住先としての人気は決して高くない。それでもどうしてもアメリカで子育てしたい人がもしいたら、「移民多様化ビザ抽選プログラム(通称グリーンカード抽選)」で当選するくじ運を祈ろう。

では、英語の本家本元であるイギリスは?

なんと言っても英語のお膝元、クイーンズイングリッシュが学べて語学学校なども充実しているイギリスには、1~2年までの短期留学ならしたことがある方も多いのではないだろうか。

ただ家族で本格的に、長期的に移住となると、親が長期滞在ビザを取得する必要がある。イギリスは長期滞在ビザの種類も豊富だが、私たち日本人はものすごく狭き門の現地採用の他は「イギリス企業に3億円以上投資」「芸術や学問の分野で、イギリスの認定機関から推薦されるほどの特別な才能を有する」「イギリスで起業する予定があり、すでに潤沢な資金と利益がある」などの夢のような条件のうちどれかに該当せねばならず、ハードルの高さが有名だ。

学費や生活費も高いため、イギリスは短期の留学向けといえるのかもしれない。

「大自然+英語圏」カナダ・オーストラリア・ニュージーランド

もちろんケースバイケースでもあり、カナダなどは州によって独自のビザ(英語で職業訓練校を修了し、フランス語試験に合格すれば永住権を取得できるケベック州のPEQなど)を発行している場合もあるのでかなり無理やりまとめることをご了承いただきたい。

これらの国は元来移民の国である背景から多文化国家でもあり、「外国人が住みやすい国」といったランキングで毎回トップにランクインする。治安も比較的安定していて、「英語圏」の中では長期ビザも比較的取得しやすいと従来より海外移住希望者から注目を集めてきた国だ。なにより豊かな大自然の中での子育ては、英語以上に多くのことを子どもに学ばせてくれると教育移住先としても人気。

ただし学費や生活費が必ずしも安くなく、保護者1人までなら保護者ビザが取得しやすいことから、するとしても家族全員での移住よりも親子留学を選択する人が多数なようだ。

自然は子どもに多くのことを教えてくれる(画像:unsplash

教育の充実+意外と移住の可能性がある国も。ヨーロッパ

さて、教育と子育てサポートなどの社会制度が充実していて、英語環境もソコソコ整っている国といえば北欧などのヨーロッパ圏の先進国だ。

ここで種明かしをしてしまうと、冒頭でお話したように日本からオランダが日本人にとって人気の教育移住先になった理由には、もちろん「世界一幸福な子ども」を育てる社会や、子どもの主体性を重んじる教育にもあるが、実は「ビザの取りやすさ」が大きく影響している。

とある労働条件にまつわる事件(一般的には『松風館事件』と呼ばれている)をきっかけに2015年に発掘された100年以上前の日蘭友好通商協定の影響で、犯罪歴などのリスク要素のない日本国籍保有者は誰でも、わずか4,500ユーロ(約55万円)の資本金で個人事業主として起業家ビザが取得できるようになったのだ。

その後協定の効力の見直しがなされ、発掘された時点よりは更新にある程度の条件が加わったものの、2020年にはこの「起業家ビザ」を取得して移住した人の配偶者も自由にオランダで労働できるようになった。

これは特例中の特例で、世界で日本を含む2、3カ国だけが持つ「特権」だ。現在、このビザで移住した日本人の多くが、アート、教育、コンサルティング、飲食店経営など様々な分野で活躍している。そしてその個人主義で子どもに優しい文化から、「子育てがしやすい」と移住者が口をそろえて言う。

インターナショナルスクールも年間の学費50万円くらいからあり、現地校は親が長期滞在ビザを取得すれば18歳の義務教育修了まで無料(この教育費の家庭負担の低さが、英語圏諸国よりも子育て費が抑えられる大きな理由)、英語も義務教育の過程で身につく。

現地校希望でオランダ語が一切できないことが不安な場合は、オランダ語ができない移民の子どものためのISKという特別学級に通うこともできる。多様性に寛容で9割以上の国民が英語を話せるので、日本人にもなじみやすい。

おいでませオランダ…とは一概に言えないが(画像:unsplash)

また意外なことにオランダのような起業家ビザ制度のないお隣のドイツにも、教育移住した日本人が少なからずいて驚いている。こちらもEU以外では8カ国しかない優待国に日本が入っており、観光ビザやワーキングホリデーで入国した後に長期滞在のビザを申請してみることもできるようだ。

例えば観光ビザでの滞在中に就職活動をして現地採用され、平均程度以上の収入のある1年以上の雇用契約をメインとするいくつかの条件を満たせば長期滞在ビザを申請できるとのこと。ただし現地企業が日本人を雇う場合はそのポストの仕事が絶対にEU圏内の国民ではできないことを証明する必要があるなど、イギリス同様ハードルは決して低くない。オランダほど英語話者の率も高くないので、現地語の学習も生活にほぼ必須だ。

同様に教育と社会システムの充実で有名な北欧諸国は、ビザ取得の難しさ以上に家賃をはじめとする生活費がとんでもなく高く、外国人に対するオープンさもいまひとつで、素晴らしい教育システムには憧れるものの教育移住先として現実的な選択肢ではないというのが実際のところなようだ。残念。

現在オランダに暮らす教育移住者の体験

事務的な話ばかりしてしまったので、最後に少し実際に体験した人の「生きた」話を。

現在オランダに住む40代の日本人男性・Aさんは、3人のお子さんを持つパパ。大手シンクタンクのコンサルタントとして「ワーカホリック」な日々を送っていたが、子どもと過ごす時間がほとんどない生活を省み、「子どもと過ごす時間の確保」「子どもの国際教育」「自分の海外経験」のために奥様とお子さんを含む家族5人でオランダに移住した。

日本にいた頃から「日本に閉塞感を感じ、海外移住の機会を虎視眈々と狙っていた」というAさんは、まずオランダの企業の日本法人に転職し、そこで本社勤務のポストを見つけて現地採用で再就職というエリートコースでオランダに移住しているので、先述の起業家ビザとは一切無関係だ。

しかしむしろその母国でのエリートコースという輝かしく安定した人生のレールを降りて、9000km離れた国へのフライトに乗った体験はどんなものだったのだろう。好奇心に駆られて伺ったお話の中で特に印象に残ったのは、

「オランダでは国民が日本のように一生懸命働いていないのに社会が回っている、というかむしろはるかに豊かな社会であることに驚き、日本であくせく働くのが馬鹿らしくなりました」

「他人を思いやることが美徳であり当然視される日本と違い、オランダは個人の自由を保証し干渉しない代わりに、人の世話を焼かない国。一概にどちらが良いとは言いがたいですが、日本を息苦しく感じているような人にとっては良い場所だと思えます。自分もその1人です」

「個人主義のオランダでは一人一人の子どもが自分の指向・環境・状況に応じて学習の仕方を選択できる多様性が保証されています。近年の日本を見ていると、子どもたちに人生の選択肢を増やすことができたという意味でも、オランダ移住という選択肢はよかったと考えています」

といったものだった。

Aさんのお話は、筆者が子連れでオランダに来て感じたことにとても近い。集団の利益よりも個人の幸福が重要視され、子どもにも大人にも多様性が認められるこの国は、子育てがとてもしやすいと感じる。そしてそういった国で楽しく子育てしている親が一緒にいてくれ、幸福な大人としてのモデルとなる姿を見せてくれる時間が多いことは、子どもにとって富や名声や学力よりもはるかに重要なことだと個人的に思っている。

一方で、もちろん日本のものを恋しいと思うことも多々あるし、個人主義のB面のままならぬサービスや他人の身勝手さにイライラすることも多い。要はどこの国にいても家族が納得してその国で幸福に子育てできればいい話だから、「一概にどちらがいいとは言い難い」というAさんの意見にも100%同意だ。

さて毎度で恐縮だが、あなたはどこの国で子育てしたいだろうか?

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit

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