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なぜ福島は「実証の聖地」なのか。企業の挑戦を事業へつなぐ、その仕組み

なぜ福島は「実証の聖地」なのか。企業の挑戦を事業へつなぐ、その仕組み

福島県浜通り地域等(通称「イノベ地域」※)では今、社会実装前の技術が、実際の利用環境に近い条件で試されている。ドローンが空を飛び、ロボットが災害対応やインフラ点検を想定した環境で動く。農業、物流、エネルギー、廃炉など、地域が抱える課題そのものが、未来のビジネスを実現するための技術を試し、磨くためのフィールドとなっている。

福島県でこのような挑戦が生まれている背景にあるのが、東日本大震災・原子力災害からの復興を機に進められてきた国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」(以下、福島イノベ構想)だ。実証環境、実用化開発を支える補助金、事業化に向けた伴走支援など、技術や事業を試し、社会実装へ近づけるための仕組みが整えられ、「あらゆるチャレンジを可能とする実証の聖地」となりつつある。これらの仕組みを活用し、アイデア段階から起業に成功し、事業を軌道に乗せた企業も誕生している。

さらに2023年、国は新たな研究機関として、特殊法人「福島国際研究教育機構」(以下、F-REI(エフレイ))を設立した。F-REIでは、世界トップ水準の研究開発をはじめ、産業化や人材育成など、福島県をはじめ東北の復興を目指した取り組みを進めている。

そして現在、福島イノベ構想の下で蓄積されてきた研究開発や実証、企業支援などの取り組みと、F-REIの取り組みがつながることで、イノベ地域では研究成果や企業の技術・アイデアを、実証から事業化へとつなげていく環境が整いつつある。

研究、実証、そして事業化へ——。この地域には、企業のアイデアや技術を次のステージへ進めるための、どのような環境が整っているのか。福島イノベ構想とF-REIの取り組み、そして実際にイノベ地域で挑戦する企業の声から、その可能性を探っていく。

ロボット、ドローン、次世代技術。「実証の聖地」福島県へ

「私たちは、イノベ地域を『あらゆるチャレンジが可能な実証の聖地』と言っていますが、これは決して大げさではありません」

そう語るのは、福島県企画調整部福島イノベーション・コースト構想推進課の黒田洋介課長だ。

福島県 企画調整部 福島イノベーション・コースト構想推進課 黒田洋介課長

福島県では、福島イノベ構想のもと、①廃炉、②ロボット・ドローン、③エネルギー・環境・リサイクル、④農林水産業、⑤医療関連、⑥航空宇宙の6分野を軸に、さまざまな技術の実証が進められている。

こうした挑戦を支える代表的な施設の一つが、福島県が整備した「福島ロボットテストフィールド(以下、RTF)」だ(2020年3月全面開所)。

陸・海・空のフィールドロボットの一大開発実証拠点であるRTF

東京ドーム10個分の広大な土地に、災害現場やインフラなどの実際の使用環境を再現しており、ロボットの性能評価や操縦訓練などができる世界に類を見ない充実した環境だ。さらに陸・海・空の実証環境を備えており、物流、インフラ点検、大規模災害などに活用が期待されているドローン・空モビリティ、災害対応ロボット、水中探査ロボットといったフィールドロボットを対象に、研究開発、実証試験などが行われている。

なお、2025年4月に施設がF-REIに統合されたことで、ロボット分野を中心とするF-REIの研究開発、産業化、人材育成に関する機能が付加され、さらなる発展・活用が期待されている。

実証フィールドは、身近にもある。

「福島県では、実際の山地などをフィールドにして、技術が本当に社会で使えるのかを試せる環境もあります。研究室の中だけでは見えてこない課題に向き合いながら、社会実装を見据えて技術を磨いていける。それが福島県で実証する大きな意味ですし、ここでしか試せないこともあります」と黒田課長は言う。

実際、イノベ地域では、社会実装前の技術が動いており、さまざまな挑戦が進行している。

例えば、渋滞に関係なく利便性や安全性に優れ、次世代交通システムとして期待される都市型ロープウェーの開発。常温・常圧で運搬・貯蔵が可能な粉体水素技術、小型水素製造装置など、水素の社会実装に向けた実証研究もその一つだ。

このようなイノベ地域の環境が、中小企業・スタートアップにとっても、大企業にとっても、新たな技術や事業を試し、磨き、社会実装へ近づける選択肢となっている。

「この地域の魅力は、充実した実証環境だけではなく、事業化につなげていくための手厚い支援もあることです。企業にとって、『フィールド』と『支援制度』は車の両輪だと思いますが、その双方がそろっているのです」

新たな産業をつくる。福島イノベ構想が生んだ変化

実証環境とともに、企業の挑戦を支えているのが福島イノベ構想だ。

「福島県は現在も、東日本大震災と原子力災害に向き合い、復興に取り組んでいます。その歩みの中で、既存産業にとらわれず、新しい産業を創ることができるという、福島県独自の強みが生まれてきました。自由にあらゆる挑戦ができる地域なのです」(黒田課長)

福島イノベ構想が目指してきたのは、実証の場を整えることだけではない。起業や新たな技術・サービスの開発・展開を目指すさまざまな事業者の参画を促し、福島県内の企業や大学、研究機関などとの接点を生み出しながら、新たな事業を地域に根付かせていくことにある。

「イノベ地域には先進的な技術を持つ企業が集まってきており、幅広い挑戦が積み重ねられてきました。福島イノベ構想が走り出してから、立地した企業は450件以上になり、着実に産業の芽が出始めています」

地域復興実用化開発等促進事業費補助金(以下、イノベ実用化補助金)の採択企業を対象とした事業化支援は2025年度末時点で200社228テーマに上り、事業化に至った事例も約150件となるなど、幅広い業種・ステージの企業がイノベ地域で事業を進めている。

こうした企業の挑戦を支えているのが、アイデアの創出から起業、実用化・事業化まで、それぞれのステージに応じて用意された支援の仕組みだ。

アイデアから事業化まで。挑戦を止めない福島県の支援

新たな挑戦をする企業に必要な支援は、そのステージによって異なる。まだアイデアしかない段階と、すでに技術を持ち実用化を目指している段階では、必要な支援も違うからだ。福島県では、アイデアの創出から起業、技術開発、実用化・事業化まで、それぞれの段階に応じた支援が用意されている。

福島県商工労働部産業振興課の十二所謙課長は、その考え方についてこう語る。

「新たな挑戦をしようとする方を、アイデアの部分から創業後まで、手厚く支援しています。企業の挑戦は、最初から完成した事業計画があるケースばかりではありません。まず地域を知ってもらい、アイデアを磨き、必要に応じて専門家や地元企業、金融機関につなげていく。企業のフェーズごとに必要な支援を組み合わせながら、ステップアップしていけるように伴走することを大切にしています」

福島県 商工労働部 産業振興課 十二所謙課長

例えば、アイデア段階では、ビジネスアイデアコンテスト「イノベのたまご」がある。最優秀賞受賞者には、海外での研修機会や「Fukushima Tech Create」(以下、FTC)アクセラレーションプログラムへのエントリーの際は審査において加点されるほか、アイデアのブラッシュアップ支援も行われる。

起業や事業化を目指す段階では、FTCを通じて、専門家による伴走支援、試作品開発や実証費用の補助、地元金融機関のサポートなどを受けることができる。FTC事業では同期に採択された事業者同士、過去から現在に至るまでの採択事業者間のコミュニティーもあり、相談や協業のネットワークが形成されている。

さらに、技術の実用化を目指す企業には「イノベ実用化補助金」がある。補助率最大4分の3、上限7億円という大型の実用化開発・実証の補助金による支援に加え、実証場所や調達先の紹介、マーケティング、知財関連、資金調達の支援、自治体や地元企業とのマッチングなどの伴走支援も用意されている。

また、事業化を進める上では、知的財産の面でも福島県ならではの支援制度がある。特許庁の「震災復興支援早期審査・早期審理」の対象となる場合、通常より早期の審査・審理を申請することができる。

アイデアを形にするところから、技術を磨き、実証し、事業として社会に送り出すところまで、企業がどの段階から福島県に関わっても、次のステージを目指すための支援につながることが、福島県で挑戦する大きなメリットになっている。

挑戦を、事業へ。manisoniasが福島県でつかんだ可能性

こうしたイノベ地域の環境は、スタートアップをはじめ企業の挑戦をどのように前に進めているのだろうか。

その一例が、2024年2月に設立された福島県田村市にある株式会社manisonias(マニソニアス)だ。

同社はドローンによる中山間地域の物流・災害対応、農業巡回、鳥獣害対策など、ドローンを活用して地域課題を解決するさまざまな事業に取り組んでいる。

株式会社manisonias 橋本綾子代表

同社の挑戦は完成された事業プランを持ち込んだところから始まったわけではない。

橋本綾子代表は、イノベのたまごをきっかけに、FTCアクセラレーションプログラム、イノベ実用化補助金などを活用し、アイデアを具体的な事業へと育ててきた。

「第1回のイノベのたまごで最優秀賞を受賞してから今までずっと、福島の皆さまが、ソフト面でもハード面でも多岐にわたってサポートし、伴走してくれています。イノベのたまご、FTC、実用化支援、という流れがあったからこそ、私の一からの挑戦を軌道に乗せられたのだと感じています。

起業当初は、書籍や動画では得られない実践的な知見や人脈が重要ですが、福島では本当に人とのつながりに恵まれました。いろいろな人がさまざまな場面で協力してくれたおかげで、今があります。ロボット・ドローン分野は、ハード設計、電気、ソフトウェア、マーケティング、法律など幅広い知識が求められます。スタートアップが参入するのはハードルが高いと思っていましたが、福島の充実したサポートのおかげで、一歩踏み出すことができました。また、得意分野の異なる福島のドローン開発企業などとの連携にも恵まれました」

manisoniasが活用した支援や施策の流れ

同社では、ドローンを使ったサービスだけでなく、自社での機体開発にも取り組んでいる。機体開発は比較的場所を選ばずにできるものの、飛ばすとなると、安全確保のためのルールや手続きに対応する必要があり、場所は限られてくる。

その点について橋本代表は、「福島では、研究開発拠点のすぐ近くで実際に飛ばすことができますし、山間部など実際のフィールドで試すこともできます。開発から実証までをスムーズに進められる、非常にいい環境です」とその環境を評価する。

支援を受けながらアイデアを形にし、必要なパートナーと出会い、実際のフィールドで技術を試す。同社の歩みは、これまで紹介してきたイノベ地域の環境が、企業の挑戦にどう生かされているのかを具体的に示す一例といえる。

「福島は、本当に挑戦しやすい地域。実は以前、他地域での起業を考えたこともありましたが、ここでは事業だけではなく、私自身も応援してもらっている感覚があります。福島を選んで本当によかったと思っています」

manisoniasで開発・製造したドローンのテスト飛行を行う橋本代表

研究から、新たな産業へ。F-REIが描く未来

ここまで見てきたように、イノベ地域では、企業がアイデアを形にし、実証を重ね、事業化へと進むための環境が築かれてきた。こうした福島イノベ構想の取り組みをさらに発展させる存在が、福島県浪江町に本部を置くF-REIだ。

福島復興再生特別措置法に基づいて設立された国の研究機関で、「福島から未来を切り拓く」をミッションに掲げ、福島県をはじめ東北の復興の実現と、日本の科学技術力・産業競争力の強化を牽引する「創造的復興の中核拠点」を目指している。

F-REIが担うのは研究開発だけではない。産業化、人材育成、司令塔という機能を持ち、既存の研究施設や産業創出の取り組みを生かしながら、関係機関の連携、福島県浜通り地域などにおける広域な連携を推進する役割を担っている。特に企業にとって注目したいのは、F-REIは産業化まで見据えていることだ。

産業に近いところに研究機関を設けることで、企業同士をつないだり、基礎研究から応用研究・社会実装へとつなげたりしていくことが期待されている。また、研究を軸とした企業連携によるビジネスチャンス拡大、新たな技術誕生による経済波及などもF-REIの目指すところだ。

F-REIの大本治康執行役は、F-REIと企業の関係についてこう語る。

「F-REIは、産業界の方々と双方向のコミュニケーションを図り、産学官のパートナーシップを構築していきたいです。また、研究開発、実証、社会実装の各段階で、企業の皆さまと多様な形で連携し、相互に技術力などを高め合いながら、未来に向かって一緒に挑戦していければと考えています。将来的には、国内外の研究者・企業が集積するイノベーションハブになることを目指します」

福島国際研究教育機構 大本治康執行役

そんなF-REIでは現在、「ロボット」「農林水産業」「エネルギー」「放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用」「原子力災害に関するデータや知見の集積・発信」といった、5つの研究分野において、国内外で研究者の採用を進めながら、研究開発体制の拡充を図っている。

実証機能の強化も進む。前述のとおり、2025年4月にRTFがF-REIに統合された。従来の開発・実証機能を継承しながら、ロボット分野を中心とするF-REIの研究開発等に関する機能を加え、さらなる活用を図る方針だ。現在は、フィジカルAIを活用した過酷環境ロボティクスの研究開発や、試験・評価基盤の機能強化に向けた取り組みも進められている。

さらに、F-REIでは本施設の整備も着々と進めている。2030年度までに、日常的な研究活動を行うための「研究実験施設」、高度な研究活動を行うための「固有実験施設」などが完成する予定だ。

F-REIの研究施設完成イメージ図(日建設計・日本設計・パシフィックコンサルタンツ設計共同体提供 ※今後の設計で変更となる可能性あり)

F-REIにより、研究成果の産業化や新産業創出がさらに進むことが期待されており、福島県の黒田課長もこう語る。

「福島県にF-REIが加わったことで、研究から実証、事業化が一つの地域でつながるエコシステムが整いつつあります。研究機関と企業が地理的にも近く、顔の見える関係で共創できるようになることで、この地域のさらなる魅力向上と競争力の強化につながると確信しています」

次の挑戦の舞台は福島県へ。CEATEC 2026から始まる接点

イノベ地域で広がっているのは、単に新しい技術を「試せる場所」だけではない。

実際の社会課題に近い環境で技術を試すことができ、その挑戦をアイデアの段階から実用化・事業化まで支える仕組みがある。そして、そこにはすでに福島県で新しい事業に挑む企業があり、F-REIを通じて研究者や企業との新たな連携が生まれ、共創の動きが広がろうとしている。

これまで福島イノベ構想の下で蓄積されてきた研究開発や実証、企業支援。そこに、F-REIによる研究開発や産業化に向けた取り組みがつながり、さらに発展していくことで、福島県は企業にとって、自らの技術やアイデアを持ち込み、新たな可能性を探ることのできる場所へと進化している。

重要なのは、イノベ地域とのつながり方は、必ずしも「進出」や「事業化」から始める必要はないということだ。

「自社の技術を、実際のフィールドで試してみたい」
「持っている技術の新しい用途を見つけたい」
「研究機関や他の企業と組んで、新しい事業を考えてみたい」

どんな段階からでも、新たな挑戦の選択肢として考えることができる。
その接点となるのが、10月13日(火)から16日(金)まで幕張メッセで開催される「CEATEC 2026」だ。

出展ブースでは、福島イノベ構想やF-REIの取り組みを紹介するほか、コンファレンスでのトークセッションも企画している。実際にイノベ地域で事業を展開する企業やF-REIなどが登壇し、福島県における産業発展の可能性について語る予定だ。

福島県の黒田課長は、これから新たな挑戦を考える企業にこう呼びかける。

「イノベ地域には、挑戦する環境も、挑戦する仕組みもそろっています。挑戦する場所、一緒に挑戦する仲間を探している方にぜひ知ってほしい」

この地域で、自社なら何ができるのか。どんな企業や研究者と出会い、どんな新しい事業につなげられるのか。

まずはCEATEC 2026を、その可能性を探る入口にしてみてはいかがだろうか。

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